表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/127

第百二十六話:空っぽの心【side:セレスティーナ】

 あなたが私を救ってくれた。

 私が最も恐れていた、あの全てを喰らい尽くす怪物になることから。

 そのどうしようもない事実だけが、この静かすぎる白氷城で唯一の現実だった。

 そしてその現実の隣には、いつもあなたがいる。

 私の知らない、あなたが。


 来る日も来る日も、私はあなたの心を取り戻そうと必死だった。

 あの父の書斎へあなたを連れて行った。私たちが共に世界の残酷な真実と向き合った、あの場所へ。

「覚えて、いるかしら、リリア。ここで、私たちは、全てを知った。……怖かった。でも、あなたは、私の側にいてくれたわ」

 だがあなたは、ただ部屋を興味深そうに見回すだけ。

「はい、お嬢様。記録によれば、この書斎の発見が、事態を大きく動かしたとのこと。歴史的に、極めて重要な場所ですね」

 その声はまるで、歴史学者が遠い過去の遺跡を解説するかのようだった。


 暖炉の前で吹雪の山小屋の話もした。

 二人きりで互いの弱さを見せ合い、そして共に戦うと誓ったあの夜のことを。

「あなたは、私の手を握って、言ったの。『私が、あなた様の剣にも盾にもなります』と。……あの言葉が、どれほど、私を、支えてくれたか……」

 だがあなたは、ただ困惑したように首を傾げるだけだった。

「……侍女として、主君をお守するのは、当然の務めです。わたくしが、その責務を果たせたとすれば、何よりです」


 何を語りかけても届かない。

 思い出の「事実」はあなたのその聡明な頭脳に、知識として残っている。

 だが、その記憶に灯っていたはずの魂の炎……喜びも、悲しみも、私へのあの愚かなほどの献身も、すべてが綺麗に消し炭になっていた。

 私の知っている「あなた」は、もうどこにもいない。

 私の目の前にいるのは、ただ完璧な私の侍女という役割をこなす、空っぽの人形。


 その絶望的な現実に、私の心は少しずつ砕け散っていった。

 あなたが私を救うために捧げた、あなたの全て。

 そしてその対価として、私はあなたの心を壊してしまった。


 私が最も恐れていたのは、私があなたを傷つけることだった。

 皮肉なものね。

 結局、私は、あなたを誰よりも深く傷つけてしまったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ