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第百二十四話:目覚め【side:セレスティーナ】

 三日。

 それが、あなたがこの静寂の世界に囚われていた時間。

 医務室の窓から差し込む陽光が、あなたの血の気を失った青白い顔を照らし出すたびに、私の心は張り裂けそうになる。


(リリア……)


 私はあなたの冷たくなった手を握りしめ、ただ祈ることしかできなかった。

 精神世界であなたの魂が私を抱きしめてくれた、あの温もり。あなたの前世の記憶と、私へのあまりに愚かで、そして愛おしい想いが光の奔流となって、私の凍てついた心を溶かしてくれた、あの奇跡。

 その代償として、あなたが永遠に失われてしまうのではないかという恐怖。

 あなたを失うくらいなら、私はあのまま災厄の器として消え去った方がよかった。


 私がそんな後悔に苛まれていた、その時だった。

 握りしめたあなたの指先が、ほんのわずかにぴくりと動いたのは。


「……リリア!」


 ゆっくりとあなたの瞼が開かれていく。

 その吸い込まれそうなほど真っ直ぐな瞳が、私を映した。

 ああ、よかった。神様、ありがとう。


「お嬢……様……?」

 あなたのか細い声に、私はこくりと何度も頷いた。

「ええ、私よ、リリア。……おかえりなさい」


 涙が零れ落ちそうになるのを必死にこらえる。

 あなたが戻ってきてくれた。ただその事実だけで、私の世界は再び色を取り戻した。

 だが、あなたのその瞳にどこか違和感を覚えたのは、その直後のことだった。


「申し訳、ございません。ご心配を、おかけいたしました」

 その言葉は完璧なメイドのものだった。

 だがそこに、いつものあの私に向けられる熱烈な想いの響きがない。

 ただ主君を気遣う、忠実な侍女の言葉。


「どこか、痛むの?」

「いえ、そのようなことは……ただ、少し、頭が、霞がかかったようで……」


 その瞬間。私の心臓を氷の刃が貫いた。

 まさか。

 そんなはずは。


 医務室の扉が勢いよく開かれ、イザベラが駆け込んできた。

「メイド! 目が覚めましたのね!」

 彼女はあなたのベッドに駆け寄ると、その燃えるような真紅の瞳であなたの顔をじっと見つめた。

「……良かった。本当に、良かった……!」

 そう言うと彼女は子供のように、その瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。


 私はその光景をただ見ていた。

 そして、あなたのその反応を。

 あなたは涙を流すイザベラを、ただ困惑したように見つめているだけだった。

 あの玉座の間で命を懸けて対峙したはずの相手に。


 ああ、そうか。

 そういうことなのね、リリア。

 あなたは私を救うために捧げたのだ。

 あなたをあなたたらしめていた、その全ての想いを。


 私の腕の中で、あなたは戻ってきた。

 だが、私の知っている「あなた」は、もうどこにもいないのかもしれない。

 そのあまりに残酷で、そして悲しい代償の本当の意味に。

 私はただ立ち尽くすことしかできなかった。

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