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第百二十一話:精神世界へのダイブ

 開かずの書斎の中央。私は父君が遺した研究記録を参考に、床に複雑な魔法陣を描き上げていた。古代のルーン文字と錬金術の記号が、ロウソクの灯りに不気味に浮かび上がる。

 その魔法陣の中心にセレスティーナ様をそっと横たえた。彼女はシルヴィア様の抑制魔法のおかげか、今はただ静かに眠っているように見える。


(待っていてください、お嬢様。すぐにお迎えに上がりますから)


 私は覚悟を決めた。

 胸に抱いていた、あの日記の破れたページ。私の恋心の全てが詰まったそれを、魔法陣の、セレスティーナ様の胸の真上にそっと置く。

 これが儀式の触媒。

 そして私が捧げるべき、魂の対価の象徴。


 私は魔法陣の外周に立つと、目を閉じ、意識を集中させた。

 父君の研究記録にあった、禁忌の儀式の詠唱を始める。

 それは環流マナフォースループでも妖霊術《ネフィル―リアム》でもない、もっと根源的な、相対する存在、魂そのものに語りかける、精霊環伺術エレミアに似た古の言葉。


 私の唇から詠唱が紡がれるたびに、魔法陣が淡い青白い光を放ち始める。

 書斎の空気がビリビリと震え、私の魂核イドが直接、世界の理に接続していくのが分かった。


(怖い……)


 だが、もう引き返すことはできない。

 私は最後の詠唱を叫んだ。


「――我が魂を対価として捧げる! 彼の人の魂の在り処へ、我を導け!」


 その瞬間。

 世界から音が消えた。

 私の体はまるで水の中に沈んでいくかのように、急速に感覚を失っていく。

 そして私の意識は肉体を離れ、光の奔流となって、魔法陣の中心……セレスティーナ様の、その魂の最も深い場所へと引きずり込まれていった。


――――――


 どれほどの時間が流れただろう。

 私が再び意識を取り戻した時、そこに立っていたのは見渡す限り氷の世界だった。

 空は鉛色に閉ざされ、大地は全てが凍てついている。時折吹き荒れる絶対零度の風が、氷の刃となって私の頬を切り裂いた。


 セレスティーナ様の精神世界。

 そこは彼女の魂そのもの。

 孤独と絶望に完全に閉ざされた、あまりに悲しい世界だった。

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