表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/127

第百十九話:魂の叫び

 玉座の間に鋼と氷の空気が張り詰めていた。

 「彼女を討たねばならないのです」

 イザベラ様の、その鋼のように冷たい決意の宣告。それは彼女が下した揺るぎない判決でした。


(この人は、本気だ……)


 天媒院で見てきたあの猪突猛進な姿とは違う。彼女は自らが信じる「正義」のために全てを懸けてここに立っている。その、あまりに純粋で、だからこそあまりに危険な覚悟が、その瞳から痛いほど伝わってくる。


「……そこを、どきなさい」

 彼女は最後通告として、大戦斧の切っ先を私へと向けました。

「わたくしとて、無益な殺生は好みません。ですが、あなたが、それ以上、わたくしの邪魔をするというのなら――」

「邪魔、ですって……?」


 私の唇から、か細く、しかし燃えるような声が漏れた。

「あなたには、分からないのですか! あの人が、どれほどの絶望の中で、今、たった一人で戦っているのかが!」


 私の瞳はまっすぐに彼女を射抜いていました。その瞳の奥にあるのは恐怖でも敵意でもない。ただ純粋な悲しみと、そしてどこか彼女への共感にも似た色。


「あなたも、見たのでしょう? あの人が、この世界を破壊し尽くす、未来を。……怖かったのでしょう? 愛する人が、家族が、全てが、失われる、あの光景が」


 そのあまりに的確な言葉に、イザベラ様の鋼のような構えが、ほんの一瞬だけ揺らぎました。

 なぜ、このメイドが? その瞳に隠しようのない動揺が走るのを、私は見逃しませんでした。


「ええ、そうですわよ」

 彼女は動揺を冷たい笑みの下に隠し、言い放ちました。

「だからこそ、わたくしは、ここにいる。悲劇の芽は、それが育ち切る前に摘み取らねばならない。それが貴族の責務ですわ」


「責務、ですって……?」

 私の瞳から、ぽろりと一筋の涙が零れ落ちた。

「あの人を殺すことが、あなたの正義だと、本気でそうおっしゃるのですか……!」


 私はその場に膝から崩れ落ちました。

 そして彼女に懇願するように、その小さな手を差し出したのです。


「お願い、します……! 一日だけ……! たった一日だけ、時間をください……!」


 私の魂からの叫び。

 そのあまりに無防備な言葉に、イザベラ様の鋼の仮面が、ピシリと音を立ててひび割れたように見えました。


「わたしには、計画がございます。あの人を救うための、最後の、たった一つの方法が……!」

「……救う、ですって? あの災厄を? 馬鹿なことを。あれは、もはや……」

「いいえ!」


 私は叫びました。

「あの人は、最後まで、生きることを、諦めなかった! あなたを置いて死ぬくらいなら、運命と共に生き延びてみせると、そう、誓ったのです! その、気高い魂を、このまま、終わらせていいはずが、ない!」


 私の言葉が、確かに彼女に届いている。

 彼女の瞳の中に、私と同じ光が灯るのを、私は見ました。

 愛する誰かを、何かを、必死に守ろうとしている者の光が。


「もし……もし私が、彼女を救えなかった時は、あなたの邪魔はいたしません。その時は、あなたのその手で、全てを終わらせてください。……ですから、お願いです……!」


 長い長い沈黙。

 やがて彼女は天を仰ぐと、深い深いため息をつきました。

 そして、ゴトリと重い音を立てて、あれほど固く構えていた大戦斧を床に下ろしたのです。


 その音が、彼女の答えでした。

 第百十九話「魂の叫び」、いかがでしたでしょうか。リリアの、魂の叫びが、ついに、イザベラの心を、動かしました。

 次回、第百二十話「最後の準備」。リリアは、儀式を執り行うための、最後の準備を始めます。どうぞ、お楽しみに。




ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ