第百十四話:赤き戦姫の独断
王都は、二つの衝撃によって、激しく揺れていた。
一つは、フィンが仕掛けた情報戦によって暴かれた、ライネスティア家の叛逆の証拠。
そして、もう一つは、王都の練兵場に、父ゴードリィの許可のみを得て、突如として集結した、ツェルバルク家の私兵軍団。その異様な熱気は、議会の混乱を、物理的に圧殺していた。
貴族議会は、膠着していた。ライネスティア派閥は、窮鼠猫を噛む勢いで、全ての嫌疑を否定。だが、フィンが蒔いた疑惑の種は、もはや誰にも止められない。
その均衡を打ち破ったのは、鋼の靴音だった。
議場の扉が、衛兵の制止を無視して、開け放たれる。そこに立っていたのは、戦場に出るための真紅の機能的な礼装に身を包んだ、イザベラ・フォン・ツェルバルク。その背後には、彼女によって「筋肉信者」へと仕立て上げられた、屈強な騎士たちが、壁のように控えていた。
彼女は、議場の全ての視線をその身に受け止めると、静かに、しかし、全ての者に聞こえる、凛とした声で、告げた。
「ライネスティア家の痴れ言は、聞き飽きました。彼らは、ただの、駒。真の脅威は、別にございます」
イザベラの瞳には、神託を見た者だけが持つ、人智を超えた、覚悟の光が宿っていた。
「わたくしは、見ました。この国の、最悪の未来を。北の地で、セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルトは、もはや、人ではございません。世界を喰らう、バグ。放置すれば、王都も、ここにいる皆様も、全てが、無に帰す、絶対的な『災厄』ですわ」
彼女の、あまりに衝撃的な告白。
「そして、その引き金を引いたのが、古の禁忌の復活を目論む、狂信者ども…『律章復興派』であることも、わたくしは、存じております」
議場が、どよめきに包まれる。
イザベラは、その混乱を、一瞥で制した。
「もはや、議論の時間は、終わりました。これより、ツェルバルク家は、王国の『剣』としての、責務を、果たします」
彼女は、玉座に座る、国王陛下に、深く、しかし揺るぎない礼をした。
「わたくしは、これより、我が軍を率いて、白氷城へと、進軍いたします。目的は、律章復興派の残党殲滅。そして……『災厄の器』と化した、セレスティーナ・フォン・ヴァイスハルトの、完全なる、無力化です」
それは、事実上の、最後通牒だった。
学友であった令嬢を、自らの手で討ち滅ぼすという、あまりに非情な決意表明。
彼女は、国王陛下の許可を待つこともなく、呆然とする議会の貴族たちに、くるりと背を向けた。
「御免」
その短い一言だけを残し、彼女は、少しの迷いもなく、議場を立ち去っていった。
王都の門が、開かれる。
先頭に立つのは、巨大な戦斧をその肩に担いだ、赤き戦姫。
彼女は、遥か北の空を見据えた。
(待っていなさい、ヴァイスハルトの娘。あなたの、その、狂ってしまった世界は、わたくしが、この手で、終わらせてあげますわ。……愛する、兄上を、皆を、この国を、守るために)
王都の決断は、下された。
そして、物語の舞台は、再び、あの絶望に閉ざされた、白氷城へと向かう。
第百十四話「赤き戦姫の独断」、いかがでしたでしょうか。イザベラ視点での筋肉×悪役令嬢な物語は、『転生悪役令嬢イザベラ、婚約破棄も魔法も筋肉で粉砕します!』にて語られてます。
次回、第百十五話「森の姫君の祈り」。王都に残された、もう一人の仲間、シルヴィアの、命を懸けた戦いが、描かれます。どうぞ、お楽しみに。
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