第百五話:終幕
世界が、白に染まる。
セレスティーナ様の最後の命令。
その言葉を引き金に、彼女から解き放たれた絶対零度の吹雪は、もはや嵐という生易しいものではなかった。
それは世界そのものを塗りつぶし、無に帰すための、神のため息。
ライネスティア家の軍勢も律章復興派の狂信者たちも。
その圧倒的な暴力の前では、等しく無力だった。
悲鳴を上げる間もなく、彼らの存在そのものが白銀の光の中に溶けて、消えていく。
私は、その世界の終わりのような光景を、ただ呆然と見上げていた。
私の愛した人は、もういない。
私の目の前にいるのは、かつて彼女だったもの。
私がこの手で破壊すべき、一体の災厄。
その圧倒的な絶望と静寂の中。
私は、ゆっくりと右手に握りしめた短剣を持ち上げた。
月光を浴びて、その冷たい刃が、きらり、と光る。
それは、彼女が私に託した、最後の希望。
そして、私に課せられた、あまりに過酷な宿命の象徴。
私の砕け散った心に、一つの問いが浮かぶ。
あなたを殺すことが、私の愛の証明だとでも言うのですか。
答えは、ない。
ただ白銀の吹雪が、全てを飲み込みながら吹き荒れているだけ。
その神々しく、そしてどこまでも悲しい光景と。
短剣を握りしめ、何かを決意した私の悲痛な表情とで。
――物語は、静かに閉じる。
第百五話「終幕」、いかがでしたでしょうか。これにて、第四章「白氷城と偽りの神託」は閉幕となります。長らくお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
次回、暴走する力の中、彼女が最後に何を想い、何を願ったのか。その心の、最も深い場所が描かれます。どうぞ、お楽しみに。




