第百四話:最後の命令
絶対零度の嵐が、白氷城を支配していた。
敵も味方も、その圧倒的な力の前に、生命の輝きを失っていく。
私は、その地獄絵図の中心で、ただ一人立っていた。マナ収奪の嵐が吹き荒れる中、転生者としての二重の魂核だけが、私を正気でいさせてくれた。
渦の中心で静かに佇むセレスティーナ様へと、私は一歩、また一歩と歩みを進める。
彼女の銀髪は、もはや白銀の輝きを失い、まるで灰をかぶったかのようにくすんだ色へと変わり果てていた。月白色だったはずの瞳からは光が消え、ただ虚空を見つめている。
暴走する力に、その魂が完全に呑まれようとしていた。
私が彼女のすぐ側まで近づいた、その時だった。
彼女の虚ろな瞳が、ほんのわずかに私を捉えた。
その唇が、か細く動く。
「……リ……リ……ア……」
それは、彼女の魂に残された、最後の、最後の光だった。
彼女は、その最後の力を振り絞り、私の手をそっと握った。その手は、もはや氷のように冷たい、というより、命の温もりそのものを失っていた。
「……ありが……とう……」
彼女は、ただそれだけを囁くと、私のその手に何かを握らせる。
それは、彼女が常に護身用としてその腰に提げていた、ヴァイスハルト家に伝わる、美しい装飾の施された短剣だった。
そして、彼女は最後の命令を下した。
それは、私がこの世界に転生してきた、その本当の意味を私自身に突きつける、あまりに残酷な言葉だった。
「もし、私が、この力に呑まれ、私でなくなった時は――」
彼女の瞳から、最後の一筋の光が消え失せる。
残されたのは、ただ災厄を振りまくためだけの、空っぽの器。
その人形の唇が、最後の言葉を紡いだ。
「――あなたの手で、私を、止めて」
その命令と共に。
彼女の体から、これまでとは比較にならないほどの凄まじいマナの奔流が解き放たれた。
白銀の光が天を突き、絶対零度の吹雪が視界の全てを白く染め上げていく。
私は、その圧倒的な光景の中、握りしめた短剣の冷たい感触だけを頼りに、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
私の愛した人は、もういない。
残されたのは、私がこの手で破壊すべき、一体の災厄だけ。
私の第二の人生は、今、本当の意味で、その絶望の幕を開けたのだ。
第百四話「最後の命令」、いかがでしたでしょうか。暴走する力の中、セレスティーナがリリアに託した、最後の、そして、最も過酷な願い。
次回、第百五話「第四章、終幕」。物語は、衝撃の幕間へと、入ります。そして、第百六話では、セレスティーナの視点から、この瞬間の、彼女の心が、描かれます。どうぞ、お楽しみに。
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