第百三話:災厄の解放
「見ていなさい、リリア。ヴァイスハルト家の、本当の力を」
セレスティーナ様は、両手を、天へと掲げた。
その、小さな体に、この白氷城に満ちる、全ての、エーテルが、渦を巻いて、集まっていく。
彼女の銀髪が、ありえないほどの光を放ち、一本一本が、まるで白銀の奔流のように、逆巻く風に、舞い上がった。
空が、鳴動し、大地が、震える。
彼女が、選んだ、最後の選択。
それは、父が、禁忌として、封印していた、もう一つの、道。
自らの魂核を、触媒として、「災厄の器」の力を、部分的に、解放する。
「――喰らいなさい」
彼女の唇から、もはや、人間のものとは思えない、神々しく、そして、絶対零度の響きを帯びた、声が、放たれた。
次の瞬間、城を中心として、白銀の嵐が、周囲一帯を、包み込んでいく。
それは、ただの吹雪ではなかった。
触れるもの、全てのマナを、生命そのものを、根こそぎ奪い尽くす、絶対零度の、死の嵐。
城壁に殺到していた、ライネスティア家の兵士たちが、悲鳴を上げる間もなく、次々と、その場に崩れ落ちていく。その体からは、生命の輝きが、急速に失われ、まるで、何百年も、風に晒された、石像のように、白く、変色していく。
彼らの魂核から奪われたマナが、光の粒子となって、渦の中心…セレスティーナ様の元へと、吸い込まれていく光景は、あまりに、美しく、そして、おぞましかった。
嵐は、敵味方の、区別をしない。
城壁の上で、戦っていた、味方の兵士たちも、その、圧倒的な力の奔流に、次々と、倒れていく。
「お嬢様! おやめください!」
老執事の、悲痛な叫びも、もはや、彼女には、届いていない。
その、地獄絵図の中、ただ一人、立っていられる存在がいた。
私だ。
転生者としての、二重の魂核が、この、おぞましいマナ収奪の嵐から、かろうじて、私を守ってくれていた。
私は、嵐の中心で、静かに、佇む、セレスティーナ様を見つめていた。
彼女の瞳から、光が、消えていく。自我が、その、あまりに強大すぎる力に、塗りつぶされていくのが、分かった。
(ああ…我が君…)
彼女は、勝つのだろう。
この、忌まわしい戦いに、勝利し、故郷を、守り抜くのだろう。
だが、その代償として、彼女は、彼女自身を、失ってしまう。
ただ、世界に、災厄を振りまくためだけの、空っぽの、器となって。
私の、砕け散ったはずの心が、悲鳴を上げていた。
こんな、勝利など、私は、望んでいない。
第百三話「災厄の解放」、いかがでしたでしょうか。故郷を守るため、セレスティーナは、ついに、禁断の力の、封印を解いてしまいました。
次回、第百四話「最後の命令」。暴走する力の中、彼女が、リリアに託す、最後の言葉とは。物語は、第四章、衝撃のクライマックスへと、突き進みます。どうぞ、お楽しみに。
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