第百話:最後の光
南の城門に巨大な亀裂が走る。
もはや陥落は時間の問題だった。敵兵の、勝利を確信した鬨の声が、すぐそこまで迫っている。
城壁の上でセレスティーナ様が最後のマナを振り絞り、立ち上がろうとしていた。その砕け散る寸前の気高い魂を守るように、老執事と数人の近衛兵が彼女の前に壁となって立ちはだかる。
絶望的な光景。
誰もが終わりを覚悟した、その時だった。
遥か南東の空。王都のある方角の空が一瞬だけ温かい翠の光で瞬いた。
それは、あまりにか細く、そして儚い光。
だが、その光は確かに、この絶望に閉ざされた白氷城へと真っ直ぐに向かってきていた。
「…あれは…」
セレスティーナ様の、か細い声が漏れた。
次の瞬間、その翠の光は私たちの頭上の遥か上空で弾けた。
光の粒子が、まるで意思を持つかのように、城壁の上で戦う味方の兵士たちの上だけに静かに降り注ぐ。
温かい光。
その光を浴びた兵士たちの体から、疲労が嘘のように消えていく。傷口からは若葉が芽吹くように治癒の光が溢れ出した。枯渇しかけていたセレスティーナ様の魂核にも、清らかなマナがそっと注ぎ込まれていく。
「…シルヴィア…!」
セレスティーナ様が叫んだ。
そうだ。これはシルヴィア様の、ドルヴァーン家に伝わる精霊環伺術。王都にいる彼女が、その身に宿る全ての力を振り絞り、友の元へと届けてくれた奇跡の援護。
そして、奇跡はそれだけでは終わらなかった。
敵陣の後方。ライネスティア家の魔術師部隊が布陣する辺りで、突如、凄まじい爆発音が連続して轟いた。
混乱する敵軍。その混乱の中心に、ひらりと舞い降りる一つの小さな影。
商人見習いのフィンだ。
彼のその小さな手には、彼が王都の裏社会でその人脈を最大限に使い、かき集めたであろういくつもの魔術的な爆薬が握られている。
「へへっ、派手に、やらせてもらうぜ!」
彼は王都に残された私たちの、もう一つの剣。その小さな体で巨大な敵軍の心臓部をかき乱していく。
遠く離れた場所から、二人の友が命を懸けて道をこじ開けてくれようとしていた。
その光景に。
城兵たちの瞳に、再び闘志の火が宿る。
そしてセレスティーナ様は、ゆっくりと立ち上がった。その手には白銀の輝きを放つ氷の長剣が握られている。
彼女は眼下の混乱する敵軍を、そしてその先にいるであろう宿敵を、絶対零度の瞳で見据えた。
「…反撃の、時間よ」
最後の光は、私たちに確かに届いた。
女王の本当の戦いが、今ここから始まる。
記念すべき、第百話「最後の光」、いかがでしたでしょうか。遠く離れた仲間たちの、命懸けの援護が、絶望の戦場に、一筋の光を灯しました。
次回、第百一話「女王の剣」。反撃の狼煙を上げたセレスティーナが、ついに、城門の外へと、その身を投じます。第四章、クライマックス突入です。どうぞ、お楽しみに。
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