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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
最新章

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古き灯台への潜入


 依頼の準備のため、俺たちは再びリューベックの市場を訪れた。



 活気ある人混みを抜け、武具や道具を扱う店が並ぶ一角へ向かう。



「いいか、よく見ておけ」


 店先で矢を選びながら、俺はクリスとロウェナに説明を始めた。



「ハーピーは空を飛ぶ。つまり、矢を外せばそれきりだ。多めに用意しておく必要がある。クリス、お前の分もだ」


「はい、師匠」


「それから、この油。これは松明の火を長持ちさせるためのもんだ。灯台の中は暗いだろうからな。暗闇で視界がなくなるのが、一番危ない」


 俺はそこで言葉を切り、クリスの目を見て続けた。



「だがな、クリス。道具に頼るだけじゃダメだ。例えば、ゴブリン相手で一番重要なのは立ち回りだ。奴らは弱い分、必ず群れで襲ってくる。絶対に複数を同時に相手にするな。そして、常に背後を警戒しろ。後ろを取られるのが一番まずい。……もっとも、背中を安心して任せられる相棒がいれば、話は別だがな」


 俺の言葉に、クリスは一瞬きょとんとした後、満面の笑みを浮かべた。



「それなら安心ですね。僕の背後には、誰よりも頼りになる師匠がいますから」


 その真っ直ぐな信頼のこもった言葉に、俺は一瞬たじろぐ。


照れ隠しに、わざとぶっきらぼうに返した。



「……減らず口を叩けるようになったじゃないか。油断して背中から斬られるなよ」


 宿に戻り、いざ出発という時になって、ロウェナが自分のリュートを背負おうとした。



 俺はそれを手で制する。


「ロウェナ。そいつは置いていけ」


「……でも」


「せっかく手に入れた宝物なんだ。戦闘に巻き込まれて、傷つけたり壊したりしちゃ面白くないだろ?」


 俺がそういうと、ロウェナは少し考えた後、納得したように頷いた。


そして、部屋の隅のベッドにリュートをそっと置くと、「おるすばん、よろしくね」と小さな声で言い聞かせていた。



 リューベックの城門を出て、俺たちは海沿いの崖の上に続く道を進む。



 活気ある街の喧騒はすぐに遠ざかり、吹き付ける潮風とカモメの鳴き声だけが響く、荒涼とした風景が広がっていた。



 やがて、崖の先端に古びた石造りの灯台が、まるで巨大な墓標のように姿を現した。



「あの灯台は、このリューベックの街ができるよりもっと昔、ここにあった小さな港町で使われていたものだそうです」


 クリスが、街で得た知識を語る。


「リューベックができてからは役目を終え、今はこうして放置されているとか……」


 廃墟と化した灯台。


その歴史を知ると、潮風に混じって聞こえてくる風切り音が、まるで過去からの嘆きのように感じられた。



 灯台に近づくにつれ、上空を飛ぶハーピーの姿がはっきりと見えてくる。



 だが、その様子はどこかおかしい。


優雅に空を旋回しているのではない。


何かを警戒するかのように、あるいは何かから逃げるように、落ち着きなく、慌ただしく灯台の周りを飛び回っている。



「……妙だな」


 俺の呟きに、クリスも眉をひそめた。



 灯台のふもとに到着し、身を隠せる岩陰を見つけると、俺は二人に告げた。



「お前たちはここで待て。俺が中の様子を探ってくる。安全を確認したら合図を送るから、それまで何があっても動くな」


「はい、師匠!」


 クリスの返事を確認し、俺は単独で灯台への潜入を開始した。



 半ば朽ちた扉を抜け、内部に侵入する。黴と獣の腐臭が鼻をついた。


中はがらんとした吹き抜けになっており、壁際に沿って上階へと続く螺旋階段があるだけだ。


特に部屋のようなものはない。



 入り口から少し離れた階段の陰で、二匹のゴブリンが見張りをしている。



 俺は音もなく外套の内側から投げナイフを抜き放つと、一匹の喉元めがけて正確に投擲した。


ゴブリンは声も上げられずに崩れ落ちる。


もう一匹が異変に気づいた瞬間には、俺は既にその背後に回り込んでいた。



 脳裏に、遠い昔の記憶が蘇る。



『いいか、エド。斥候の基本はかくれんぼだ。どうすれば森の木に、道の影に溶け込めるか。どうすれば相手に気づかれずに背中を取れるか。遊びだと思うなよ、これができなきゃ冒険者にはなれねえんだ』


 厳しくも、どこか楽しげだった男との訓練の記憶。



 俺は小刀を抜き、残ったゴブリンを音もなく無力化した。



 その後も、一階部分を巡回していた数体のゴブリンを、物音一つ立てずに掃討していく。


 一階の安全を確保し、螺旋階段の麓で例の大きな足跡と、より一層強くなった腐臭を改めて確認する。



(……本命は上か)



 俺は灯台の入り口近くまで戻ると、唇をすぼめ、鳥の鳴き真似を小さく二度、響かせた。



 しばらくして、クリスがロウェナの手を固く引きながら、慎重に壊れた扉から中へと入ってきた。



 そして、内部の静けさと、物言わぬ骸となって転がるゴブリンたちの姿を見て、師の技術に改めて戦慄する。



「よし、ここを拠点にする。ここからが本番だ」


 俺はそう告げると、薄暗い螺旋階段の奥を睨みつけた。



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