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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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森の中で拾ったもの[後編]


ザンッ!


確かな手応えと共に、ドレイクの巨大な尻尾から赤い血が噴き出し、宙に飛沫となって浮かんだ。


切り落とすことは叶わなかったが、深く傷を負わせることはできたらしい。


尻尾の動きが僅かに鈍くなったのを見て、俺は素早く地面を蹴った。


宙に舞い上がり、その勢いのまま、先ほどつけた傷口目掛けてもう一線を叩き込む。


ザンッッ!


今度こそ。


クルクルと、切り離された尻尾の一部が宙を舞った。


かなりの長さがあるそれは、重力に従って地面に落ち、ドスリと鈍い音を立てた。



キーーーン!



ドレイクが、森中に響き渡るような凄まじい咆哮を上げた。


激痛と怒りに歪んだその声に怯むことなく、俺は着地と同時にドレイクとの距離を詰める。



尻尾という強力な武器を失ったドレイクが、次に何をしてくるか。


尻尾での攻撃を諦めたドレイクは、再びその巨大な口を大きく開けた。


人間二人分はあろうかという大きな口が、俺を丸呑みにしようと覆いかぶさってくる。


その影が俺の頭上を覆いそうになった、その時。




俺は足を止めた。




迫りくるドレイクの巨大な口の中へ、自ら飛び込むように。


回転するように体を翻し、低く構えた剣を一閃!


内側から、ドレイクの口角目掛けて剣を切り裂く。



「貰ったぁぁ!」




ズバァァァァァッ!




剣が肉を断つ感触。


そして、ドレイクの顔上半分が、血と肉片となって派手に弾け飛んだ。


凄まじい重量感と共に、血飛沫が辺りに飛び散る。


ドレイクの咆哮が途切れる。


顔の半分、脳髄の一部を失ったはずだ。


これで終わりだろう。



…かと思いきや。



顔が半分無くなったにも関わらず、ドレイクは未だ動いていた。


巨体が痙攣し、血を撒き散らしながら、森の奥へ、這うように逃げていく。



致命傷は与えたはずだが、完全に止めを刺すことはできなかった。



だが、今は追撃するより大事なことがある。




ドレイクが完全に視界から消えたのを確認し、俺は剣についた血を払い落として鞘に収めた。そして、急いで少女の元へ向かう。


外套に覆われて、街道に倒れたままの少女。



恐る恐るその肩に触れる。


ひんやりとしているが、微かに呼吸をしている。



意識は無いが、生きている。



良かった。




地面に腰掛け、少女を抱き起こそうとするが、やはり難しそうだ。


戦闘直後に、この森の中を、意識の無い少女を抱えて安全な場所まで移動するのは無理がある。



仕方ない。少女が意識を取り戻すのを待つしかないだろう。



幸い、ドレイクは撃退した。



その生臭い匂いはまだ辺りに残っている、それは同時に他の余計な魔物を遠ざける効果もあるだろう。


しばらくの間は、この場所は安全なはずだ。



俺は街道の脇の開けた場所に、簡易な野営の準備を始めた。



枯れ枝を集めて焚き火の準備をし、背囊から毛布を取り出す。少女を毛布で包み、焚き火の近くに寝かせる。


とっぷりと夜の帳が下りる頃、焚き火の炎がぱちぱちと音を立てるのを聞きながら、俺はウトウトとしていた。



緊張が解けたせいだろうか、ひどく疲れている。


微かな物音で目が覚めた。


横で眠っていた少女が、ゆっくりと体を起こそうとしているのが見えた。



「…ん…?」



かすれた声。意識が戻ったらしい。


「ああ、目が覚めたか」



俺は安堵した。


助けた相手が無事だった。


それが今は何より嬉しい。



少女はハッとしたように周囲を見回す。


自分がどこにいるのか、何が起こったのか、分かっていないようだ。



怯えた瞳が、篝火に照らされて揺れる。



「大丈夫だ。もう追い払ったよ」


俺はそう言いながら、手に持っていた木の棒で、街道の反対側を指した。




そこには、切り落とされたドレイクの尻尾と、血塗れの顔の上半分が転がっていた。


それを見た少女は、小さく悲鳴を上げた。


そして、まるで倒した俺も怪物であるかのように、震えながら俺の後ろに隠れようとした。



「ひ…ひっ…」


「大丈夫だ。あれはもう動かない。」



俺は慌てて説明する。


衛兵だった頃、魔物と遭遇した一般人の対応もしたことがある。


怯えている人間にどう接すればいいかは、多少なりとも心得ているつもりだ。



「あれはドレイクという魔物だ。追い払った。トドメは刺せなかったが、見ればわかるだろう? 致命傷は与えた。しばらくは安全なはずだ」



俺はゆっくりと、落ち着いた声で話した。


少女は怯えた表情のまま、小さく息を呑む。

まだ、状況を理解しきれていないようだった。



「まずは、これで一息つくといい」



俺は背囊から水筒を取り出し、それと一緒に乾燥フルーツが入った小袋を差し出した。



「水と、甘いものだ。少しは落ち着くだろう」



少女は震える手でそれを受け取り、恐る恐る水筒に口をつけた。



その瞳はまだ、恐怖に揺れていた。



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