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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
肉の街ヴァイデ編

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独占された肉と、小さな決意


 翌日、俺たち三人は街の現状を把握するため、ヴァイデのレストランや酒場を巡り始めた。


どの店も、レセヴォアの街と比べて明らかに値段が高い。



 俺は昼食時に入った一軒の食堂で、人の良さそうな店員にカマをかけてみた。


「すまないが、以前この街に来た時より、ずいぶん高くなってないか? 何かあったのか」


 俺の言葉に、店員は待ってましたとばかりに、大きなため息をついた。



「お客さん、よくぞ聞いてくれました。実は、生肉の仕入れ値がとんでもなく高騰しちまってて、うちもやむを得ず値上げしてるんですよ」


 店員は周囲を気にするように声を潜め、俺の耳元で囁いた。



「まともに組合を通しての入荷はもうほとんど無くてね。ほとんどの店があの『金獅子の咆哮亭』から肉を卸してもらってるんです。だから、余計に高くなるって寸法で……」


 食堂を出て大通りに出た俺たちは、その言葉の意味を目の当たりにすることになった。


ひときわ豪華な店構えの『金獅子の咆哮亭』の前で、屈強な従業員たちが物々しい雰囲気で荷馬車から新鮮な生肉を次々と店に運び込んでいる。


他の店では見られない光景に、クリスは唖然としていた。



 俺たちは足早に冒険者ギルドのヴァイデ支部へと向かった。


受付で、俺は単刀直入に尋ねる。



「『金獅子の咆哮亭』に雇われている仮面の剣士について聞きたいんだが、何か情報はあるか?」


「ああ、彼の噂は私どもの耳にも入っております。ですが、素性も実力も一切が謎でして……。腕が立つのは間違いないようですが」


 職員の煮え切らない態度に、クリスが我慢できずに声を荒らげた。



「ギルドとして、彼らのやり方を黙って見過ごしているのか!」


「お気持ちは分かりますが、我々も苦慮しているのです。『金獅子の咆哮亭』の商売は、値段を釣り上げてはいますが、表向きは正当な取引。法を犯しているわけではありません。用心棒を雇うのも自由……我々には介入する権限がないのです」


「購入に制限をかけるなど、対処方法はあるだろう!?」


「残念ながら。彼らは牧場から直接仕入れをしていると聞いています。それに、ここは冒険者ギルドです。街の肉の流通は、我々の管轄外なのですよ。それでしたら、商業組合へ行ってみてはいかがですかな」


 職員に言われるがまま商業組合へ向かうと、そこでも同じような問答が繰り返された。



「肉の街なのに肉が品薄で高いのはなぜだ! レセヴォアに大量に輸出したからと言って、こんな品薄になるのはおかしい! 『金獅子の咆哮亭』に独占を止めさせるように言わないのか!」


 詰め寄るクリスに対し、組合の職員は疲弊した顔で答える。


「牧場での牛の成育が間に合っていないのです。こればかりはどうしようも……。『金獅子の咆哮亭』に関しては、直接牧場から買い付けているようで、我々も苦慮しています。本来は組合を通すべきなのですが……詳しくはお話しできませんが、規則の抜け道をついた取引で、こちらからは手が出せないのが現状でして」



 その夜、俺たちが世話になっている宿に、近隣の小規模店の店主たちが集まり、今後の対策を話し合っていた。



「このままではジリ貧だ。団結して、ヴァイデ周辺の、大手ではない小規模な牧場を回って直接交渉してみるのはどうだろうか」


 宿の主人の提案に、他の店主も賛同する。


「しかし、それでも今までの仕入れ値よりは高くなるだろう。それに、街の外へ出るのは危険も伴う……」


 重い空気が流れる中、話の輪から少し離れた場所で、俺たちの隣で聞いていたロウェナが、唐突に椅子から立ち上がった。



「行ってくる!」


 元気な声に、店主たちの視線が一斉に集まる。


驚く彼らを前に、ロウェナは俺に向き直り、その外套の裾を両手でぎゅっと掴んだ。



「お肉、皆で食べよ?」


 その、あまりにも純粋な言葉。


俺は内心の葛藤を隠すように、天を仰いだ。


やれやれ、どうしてこうなるのか。



「……約束だからな」


 短く呟いた俺の言葉は、結局は面倒事を引き受けるという、いつもの決意表明だった。


俺は店主たちに向き直り、懐からBランクのギルド証を見せる。



「俺が護衛を請け負おう。ただし、これだけの品薄になるのは、牧場側でも何かあったのかもしれない。何が起きても対処できるよう、準備は万全にしてほしい」


 翌朝、出発の準備を進める中、俺はクリスに街に残るよう指示した。



「お前は、引き続き『仮面の剣士』の情報を集めろ。相手の実力も素性も分からんうちは、絶対に手を出すな。いいな?」


 俺の強い視線に、クリスは「はい、師匠!」と力強く頷いた。


 俺とロウェナは、各店の代表である店主や数名の小間使いと共に、数台の荷馬車を連れて、ヴァイデ近郊の小規模牧場へと出発した。


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