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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
肉の街ヴァイデ編

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師と弟子、そして仲間


 レセヴォアの南門をくぐり、どこまでも続く一本の街道が俺たちの前に伸びていた。


ここから、三人でのヴァイデへの旅が本格的に始まる。


俺は隣を歩くクリスに向き直った。



「いいか、クリス。勘違いするな。俺はお前に剣の型を教える気はない。お前の剣はお前のものだ。俺が教えるのは、生き残るための戦い方と、この世界を渡っていくための術だ」


「はい……!」


「戦闘になったら、基本的にはお前が前に出ろ。俺はロウェナを守りながら、後ろから指示を出す。それでいいな?」


「はい、師匠! お任せください!」


 緊張と決意に満ちた二人のやり取りを、ロウェナは不思議そうな顔で見上げていた。



 旅の初日の夜営。


クリスは火起こしに手間取り、何度も火打ち石を打ち鳴らすが、一向に火口に火が移らない。



「くそっ、なぜつかないんだ……! 料理の準備も…いつもは仲間がやってくれていたから、その…」


 その様子を見かねた俺は、ロウェナの肩を軽く叩いた。



「ロウェナ、クリスに火の起こし方を教えてやれ。この間の復習だ。わからないところがあったら、俺が教えてやるから、やってみろ」


 ロウェナはこくりと頷くと、おずおずとクリスに近づき、身振り手振りを交えながら覚えたての知識を披露し始めた。



「くりす、ちがう。こう、ふわって」


「いし、こっち」


 年下の少女に教えられることに、クリスは気まずさと照れくささを感じながらも、素直に耳を傾ける。



「あ、ああ…すまない、ロウェナちゃん。なるほど、そうするのか……」


 やがてパチパチと音を立てて燃え上がった焚き火を囲み、ぎこちないながらも三人の間に最初の交流が生まれた。



 道中、俺による実戦的な指導が始まった。


「クリス、目の前の道だけを見るな。左右の地形、風向き、太陽の位置。全てがお前の武器にも、敵にもなるんだ。あの丘の裏に身を隠されたらどうする?」


「はい! しかし、それは剣の型には…」


「型はあくまで基本だ。実戦で型通りに動いてくれる敵はいない。敵の足跡を見ろ。新しいか、古いか。一匹か、群れか。そこから何を読み取る?」


 クリスは俺の言葉を一言も聞き漏らすまいと、必死に手帳にメモを取りながら食らいついていく。


 俺がクリスの指導に時間を割くようになり、ロウェナは口に出さずとも寂しさを感じていた。


歩いている時、以前よりも強く俺の外套の裾を掴むようになり、夜営中も黙ってその隣に座り続ける時間が増えた。


 俺は、その些細な変化に気づいていた。


ある日の午後、クリスが地図読みの練習をしている間、俺はロウェナの前にしゃがみ込む。



「ロウェナ、あの雲、何に見える? 俺には、でっかいパンに見えるな」


「……おさかな」


「そうか。よし、少し疲れただろ。今日は特別だ」


 俺はそう言うと、ロウェナをひょいと肩車した。


久しぶりの高い視界に、彼女の顔がぱっと輝き、明るい笑い声が街道に響いた。



 数日後、街道を外れた森で、オークの群れと遭遇した。


俺は宣言通り前に出ず、ロウェナを背に庇いながら戦況を観察する。



「くっ…! 一体倒しても、次から次へと…!」


 教わった戦術を実践しようとするが、連携の取れたオークの群れに苦戦するクリスに、俺からの指示が飛ぶ。


「右翼のオークを陽の当たる場所に誘い込め! 眩しくて動きが鈍る!」


「囲まれるな! 足元の根に躓かせろ、まず動きを止めろ!」


 クリスが指示に従い、どうにか一体を仕留めた隙に、討ち漏らした別のオークが俺たち目掛けて突進してきた。


俺はロウェナを庇ったまま、腰の剣を一閃する。


オークは声も無く崩れ落ちた。


俺はそのまま何事もなかったかのように指示を続ける。



 クリスは辛くも群れを撃退した。


息を切らす彼に、俺は容赦なく反省点を突きつける。


「なぜ、最初に回り込もうとしたオークにすぐ気づけなかった? 敵を一体ずつ点で見るな。常に群れ全体を面で捉えろ。次はないと思え」


 その夜、俺はロウェナに煙玉と鳴子を渡し、その使い方を教え始めた。



「いいか、ロウェナ。これは戦うためのものじゃない。敵から逃げる時間を作るためのものだ。自分の身は、自分で守る術も覚えろ」


 旅の中盤、俺はクリスに新たな役割を与えた。


「人に教えることは、自分の一番の学びになる。今日から、ロウェナの文字の練習はお前が担当しろ」


「えっ、俺がですか!? わ、分かりました……!」


 戸惑いながらも、クリスは自身の教養を活かし、丁寧にロウェナに文字を教え始める。



「ロウェナちゃん、これは『花』という字だ。道端に咲いている、あの綺麗な花と同じだよ」


「はな…」


「えどと、ちがう。おもしろい」


 俺とは違う教え方が新鮮だったのか、ロウェナは徐々にクリスに懐いていった。


焚き火の前で、クリスが地面に書いた文字をロウェナが一生懸命に真似て、うまく書けるとクリスが頭を撫でて褒める。


そんな光景が、夜営の恒例となった。



 数週間の旅を経て、三人は大きく成長した。


クリスは戦闘での状況判断能力が格段に向上し、ロウェナは話せる単語が増え、クリスとも自然に会話をするようになった。



 長い旅路の果て、遥か前方の地平線に、広大な草原に広がる巨大な街『ヴァイデ』の城壁が見えてきた。



「見えました、師匠! あれがヴァイデですね!」


「わー! おっきい!」


 長旅を乗り越えた達成感と、新たな街への期待に、三人の顔が輝く。



「さて、着いたな。約束通り、まずは美味い肉を食うぞ」


 俺が二人に笑いかけると、クリスとロウェナは「はい!」「おにく!」と満面の笑みで応じた。


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