道連れの旅路
翌朝、俺とロウェナは全ての荷物をまとめ、部屋を出た。
一階に降りると、店主がカウンターで待っていてくれた。
「おう、出発だな。これ、朝飯代わりにでもしな」
そう言って、店主は焼きたてのパンで作ったサンドイッチを二つ、紙袋に入れて渡してくれた。
「いつもすみません。ありがとうございます」
「いいってことよ。またいつでも帰ってこいよ」
温かい言葉に見送られ、俺たちは宿の外に出た。
そこには既に、『黒い短剣』の皆が、旅支度を整えて待っていた。
「準備はいいか、エドウィン」
「はい、いつでも。よろしくお願いします」
「ロウェナちゃん、出発よ!」
フィオナが明るく声をかける。
俺たちは皆に頷き、少しだが慣れ親しんだノーレストの街の門をくぐった。
目指すは南。
だが、まずは黒葉の森を越えるため、一度来た道を戻るように進んでいく。
プロの冒険者パーティーとの旅は、一人と子供の二人旅とは全く違った。
斥候のライラと、大柄な戦士のザックが先頭に立ち、周囲への警戒を怠らない。
俺とロウェナは、リーダーのゴードンとフィオナ、そして薬師のピップに挟まれるようにして、その後ろを進む。
道中、ピップがロウェナに、道端に生えている草花の名前や効能を優しく教えてくれていた。
「これはね、止血草だよ。葉をすり潰して傷口に塗ると、血が止まりやすくなるんだ。こっちは……鮮やかな色だけど、毒があるキノコだから、絶対に食べちゃ駄目だよ」
ロウェナは、分かっているのかいないのか、それでもこくこくと真剣な顔で頷きながら、ピップの話に耳を傾けていた。
その日の夜は、街道沿いの開けた場所で野営をすることになった。
大きな焚き火を囲みながら、ゴードンが俺に尋ねる。
「しかし、お前さん、いつも二人きりの時はどうしてるんだ? 夜の見張りとか、大変だろう」
「まあ、なんとなく気配で分かりますから。交代で、というよりは、俺がほとんど起きてますね」
俺の答えに、ゴードンは感心したように唸った。
その夜は、彼らの厚意に甘えさせてもらい、メンバーと交代で見張りをしながら、穏やかに夜を明かした。
旅の間、特にフィオナとライラは、まるで歳の離れた妹ができたかのように、ロウェナのことを気にかけてくれた。
昼間の休憩中には、フィオナがロウェナの新しい髪型を色々な形に結んであげたり、ライラが木の実や小石を使った簡単な遊びを教えたり。
彼女たちは、自分たちの故郷の話や、冒険者になったばかりの頃の失敗談などを、子供にも分かるように優しく語りかける。
ロウェナは言葉を返せないが、その話を一生懸命に聞いていた。
夜、寝る時になると、三人はまるで姉妹のように一つの大きな毛布にくるまって、楽しそうに囁き合っていた。
変化は、それだけではなかった。
二日目の夜営中、焚き火の明かりが、ロウェナの髪に留められた木製の髪飾りを照らした時だった。これまでロウェナを遠巻きに見ていたザックが、それに気づいた。
「嬢ちゃん、髪切ったんだな。その飾りも、よく似合ってるぜ」
ぶっきらぼうだが、どこか照れくさそうなその言葉に、ロウェナははにかんだ。
そして、おずおずとザックの隣に寄り、一緒に夕食を食べ始めたのだ。
ザックも、まんざらでもない様子で、自分の分の干し肉を小さく切ってロウェナの皿に乗せてやっていた。
俺も、そんな彼らの輪に加わり、穏やかな夜を過ごす。
一人と一人だった俺たちの旅は、いつの間にか、賑やかで温かいものに変わっていた。
黒葉の森の手前にある宿場まで、道中は何事もなかった。
以前、ドレイクやゴブリンに襲われたのが嘘のように、静かな旅路だった。
「見えてきたぜ、森の手前の最後の宿場だ」
先頭を歩くザックの声が響く。
「俺たちとの道連れも、ここまでだな」
ゴードンの言葉に、俺は静かに頷いた。




