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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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旅立ちの前夜


 ある程度の荷物を背囊にまとめ終えると、俺はベッドに腰掛けて一息ついた。 


 ロウェナはと言えば、ベッドの上に以前買った服を何枚も広げ、真剣な顔で腕を組んでいる。

どうやら、明日の旅に何を着ていくか、悩んでいるらしい。



(街なかで着る服と、移動用の服。ちゃんと分けてやった方がいいか……)


 そんなことをぼんやり考えていると、自然と視線は手元にある古い手帳へと落ちた。

代官騎士様にもらった、大切な手帳だ。



 パラパラとページをめくる。



 領都を出て、まだ一月も経っていない。


それなのに、この手帳に書き込まれた出来事の、なんと濃密なことか。



 黒葉の森。


 巨大なドレイクとの死闘。


 そして――ロウェナとの出会い。


 果ては、冒険者になるなんて。



 思い返しているうちに、思わず、くつくつと笑いが込み上げてきた。


 気ままな一人旅になるはずが、どうしてこうなったのか。

(……まあ、悪くない)



 俺はペンを取り、今日あった出来事を手帳に書き込んでいく。


 その時、ふと思いついた。

(そうだ。もう一冊、新しい手帳を用意しよう)


 この手帳は、騎士様との約束を果たすための、計画や情報を記す道標だ。



 旅の思い出――ロウェナとの日々を記すには、また別の冊子がいいだろう。


 一人で笑みを浮かべている俺を、ロウェナが不思議そうな顔でじっと見つめているのに気づいた。


「どうした?」

 俺が尋ねると、ロウェナは小さく首を傾げただけだった。



 夕食の時間になり、俺たちは宿の食堂へと降りていった。



 昼間のギルドでの一件が、もう広まっているのだろう。俺たちが姿を見せると、食堂の中が少しだけざわついた。


 俺はそんな視線を気にも留めず、空いている席を確保する。


 通りかかった店員に今日の夕食を二人分頼み、ロウェナに「少し待っててくれ」と伝えてから、受付にいる店主のもとへと向かった。


「店主さん、少しよろしいですか」

 声をかけると、店主は愛想の良い笑みを浮かべてこちらを向いた。


「おう、エドウィン。どうした?」


「明日、アデル丘陵に向けて出発しようと思います。なので、一旦宿代を精算させていただきたいのと……明日の朝、出発する時に、四日分ほどの携帯食を用意していただけますか?」


 俺の言葉に、店主は少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに頷いた。


「なんだい、もう行っちまうのかい。寂しくなるねえ。分かったよ、精算と食事の用意は任せときな!」


「ありがとうございます。それと、ついでに一つ」


 俺は去り際に、気になっていたことを尋ねた。

「『黒い短剣』の皆さんは、ここをよく使われるんですか?」


「ああ、フィオナたちのことかい? 連中が街に戻ってきた時は、大抵うちに泊まっていくよ。腕は確かだし、気風のいい奴らさ」


 やはりそうか。また会う機会もあるかもしれないな。


 礼を言って席に戻ると、テーブルの上にはもう温かい夕食が並べられていた。


 ロウェナは、料理に手をつけることなく、俺が戻ってくるのを静かに待ってくれていた。



「ありがとう。さあ、食べようか」


 二人で黙々と、しかし温かい食事を味わう。



 食事を終え、部屋に戻ると、今度はロウェナの洋服選びに付き合うことになった。



「うーん……滝を見に行くなら、こっちの方が動きやすいんじゃないか?」


 俺が丈夫なズボンとチュニックを指差すと、ロウェナはこくりと頷き、それに決めたようだった。


 明日着る服と、それ以外の服を畳み、ロウェナの背囊に仕舞っていく。


 一通りの準備を終え、俺たちはベッドに潜り込んだ。


 柔らかいシーツの感触が心地よい。


 隣からは、ロウェナの穏やかな寝息が聞こえてくる。


 明日からは、また土の上で眠る日が多くなるだろう。


 だが、それもまた、旅だ。

 

 俺は静かに目を閉じた。


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