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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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精霊のヴェール


 冒険者ギルドを出て宿に戻ると、カウンターにいた店主が、俺の手に持つ金色のギルド証に気づき、目を丸くした。

「おいおいエドウィン! そいつは……金色じゃないか! まさか、Bランクになったのかい!?」


 その声に、食堂にいた他の客たちの視線まで、一斉にこちらへ集まる。

「ええ、まあ。運良く」


 俺が曖昧に答えると、店主はカウンターから身を乗り出すようにして興奮気味に言った。

「運で上がれるランクじゃねえぞ! 大したもんだ! この街でソロのBランクなんて、お前さんくらいのもんさ! 大抵は、信頼できる仲間とパーティーを組んで、少しずつ上げていくもんなんだがな」


 すると、俺の隣にいたロウェナが、自分も忘れてくれるなと言わんばかりに、胸を張って自分の鈍色のギルド証を店主に見せつけた。


 その健気な姿に、店主は破顔して、ロウェナの頭を優しく撫でた。

「そうだな、お嬢ちゃんも立派な冒険者だ! それに、Bランクのパーティーともなると、この街じゃそこそこ名が知れてる連中ばかりだぜ」

 店主は指を折りながら、得意げに名前を挙げていく。


「そうさな、『鉄の拳』に『銀の風』……ああ、それから、最近よく顔を出す『黒い短剣』の連中もそうだな」


 黒い短剣。

 黒葉の森の入り口で出会った、フィオナたちのパーティーだ。彼らもBランクだったのか。



「そういえば、滝のことをご存知ですか? 西にあるという……」


 俺が尋ねると、店主はにやりと笑った。

「ああ、知ってるとも。アデル丘陵にある滝のことだな。ありゃあ、ついた名前がまた良い。『精霊のヴェール』って呼ばれてるのさ」


「精霊のヴェール……」


「理由は、まあ、見りゃわかるさ」

 店主はそう言って笑うと、カウンターの下から一枚の羊皮紙を取り出した。



「ほらよ、この辺りの地図だ。持って行きな」


「ありがとうございます。助かります」

 俺が地図を受け取った、その時だった。


 話が終わるのを待っていたとばかりに、食堂のテーブルに座っていた数人の客が、わらわらとこちらへ寄ってきた。

「もし、Bランクの方でしたら、ぜひ私の依頼を!」


「いや、俺の護衛依頼を先に!」


(……しまったな)

 俺は丁重に、しかしきっぱりと、彼らの申し出を断った。


「申し訳ありませんが、今は依頼を受けるつもりはありませんので」


 そう言って、ロウェナの手を引き、さっさとその場を離れる。


 階段を上がっていると、背後から「てめえら! うちの客に迷惑かけてんじゃねえ!」

という店主の怒鳴り声が聞こえてきて、俺は思わず苦笑いを浮かべた。


 部屋に戻り、扉を閉めると、ようやく一息つくことができた。


 ふと見ると、ロウェナはいつの間にか、何処ででもらったのか、焼き菓子を小さな口で美味しそうに頬張っている。


(甘いものが好きだな…まぁ俺もだがな)


 俺は背囊から自分の手帳と、先ほど店主からもらった地図を広げた。


 地図と、ギルドで書いたメモを照らし合わせる。

「アデル丘陵……か。バルガス教官は山って言ってたが、まあ、似たようなものか」


 ノーレストの街から西へ。街道をまっすぐ進めば着くようだ。


 馬車で二日ということは、俺たちの足なら、三日から四日といったところだろう。



「ロウェナ」


 俺は、お菓子を食べているロウェナに声をかけた。

「俺はな、昔、世話になった人が話してくれた、広い世界を見てみたいんだ。きらびやかな王都とか、どこまでも続く海とか、誰も知らないような古い遺跡とか……」


 俺は自分の旅の目的を、できるだけ分かりやすく説明してみた。



 しかし、ロウェナはきょとんとした顔で、ただ俺を見つめている。どうにも、よく分かっていない様子だ。




 俺は少し考えてから、言葉を換えた。

「――つまり、ロウェナと一緒に、色んな綺麗な景色を見たり、美味しいものを食べたりする旅だ」


 その言葉を聞いた瞬間、ロウェナの顔がパッと輝いた。



 そして、分かった、とでも言うように勢いよく頷くと、俺に飛びついてきた。



 その反応に、俺は思わず笑ってしまった。

 まあ、それで伝わるなら、それでいいか。


「よし。じゃあ、明日の朝、出発するぞ。準備しておくんだ」


 俺はロウェナの頭を撫でながら、そう告げた。



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