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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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新しいギルド証と、次の目的地


 やじ馬たちの輪が解けた後、俺とロウェナは再び受付カウンターへと戻った。


 すぐにバルガス教官が、満足げな顔で奥から戻ってくる。

その手には、先ほどの鈍色のプレートとは違う、金色の輝きを放つギルド証が握られていた。


「ほらよ、お前さんの新しいギルド証だ。Bランクだぜ」

 

 

手渡されたプレートには、確かに『B』の文字が刻まれている。

ずしりとした重みは、Gランクのものと変わらないが、その輝きは明らかに違った。


「たまにいるんだよ。お前さんみたいに、自信満々で昇級を願い出る跳ねっ返りがな」



 バルガス教官は、腕を組みながら続ける。

「だが、大抵は口だけで、実力が伴わずに突き返されるのがオチだ。その点、お前さんの技量は素晴らしかった。本物だよ」



 そして、その力強い目が、真っ直ぐに俺を射抜いた。

「だがな、油断するな。実戦は模擬戦とは違う。どんなに腕が立っても、運が悪けりゃあっさり死ぬのがこの世界だ。死なずに、しっかり経験を積んで、もっと上を目指せ」


 それは、教官としての、そして先輩冒険者としての、心からの激励だった。


「はい。肝に銘じておきます」


 俺が素直に頭を下げると、隣にいた受付の女性が、にこやかに話しかけてきた。



「エドウィン様は、今後、このノーレストを拠点に活動されるご予定ですか? Bランクでしたら、安定して良い依頼をご紹介できますが」


 その申し出はありがたかったが、俺の答えは決まっている。


「いえ……特定の拠点は持たずに、この子と旅をしながら、色々見て回りたいんです。なので、それは考えていません」


 俺の言葉に、受付の女性は少し驚いた顔をしたが、バルガス教官は「そうかい」と面白そうに頷いた。


「なるほどな。そういうスタイルを取る奴も、たまにいるが……まあ、珍しいな。大抵はどこかの街に根を下ろすもんだが」


「でしたら、一つお聞きしたいのですが」


 俺は懐から、代官騎士様にもらった古い手帳とペンを取り出した。


「この近辺で、どこか、見ておくべき珍しい景色とか、ありますか?」



 俺の質問に、バルガス教官は顎に手を当てて、うーんと少し考え込んだ。そして、ポンと手を打つ。


「ああ、それならあるぜ。この街から西へ馬車で二日ほど行ったところに、ちょっとした山があってな。そこに、かなり見事な滝がある。道も整備されてるから、ちょっとした観光名所になってるくらいだ。今の時期なら、新緑も綺麗だろうよ」


「滝……ですか。ありがとうございます」


 俺は教官に教えてもらった場所を、手帳に素早くメモした。



 騎士様が話してくれた、どこまでも広がる海原。

それとは違うが、滝というのも悪くない。



 手帳を懐にしまい、俺たちはギルドを後にすることにした。


 バルガス教官や、模擬戦を見ていた他の冒険者たちから、「達者でな!」「また訓練しに来いよ!」と温かい言葉をかけられながら、俺はロウェナの手を引いてギルドの大きな扉を開ける。



 賑やかな街の喧騒の中を、宿へと向かって歩き出す。


 これで、少しは旅の目的が具体的になった。まずは、その滝とやらを見に行ってみるか。


 そんなことを考えていると、隣を歩くロウェナが、俺の外套の裾をくいっと引っ張った。

「ん? どうした、ロウェナ」



 振り返ると、ロウェナは不満そうな顔で、自分の首にぶら下がったGランクのギルド証と、俺が手に持っているBランクのギルド証を、交互に指差していた。



 そして、ぷくーっと、リスのように頬を膨らませている。

(ああ、なるほど……)


 どうやら、お揃いだと思っていたギルド証のランクが、自分だけ違うのが気に入らないらしい。

(これは、仕方ないだろう……)


 俺は苦笑いを浮かべながら、ロウェナの頭を優しく撫でた。


「まあ、そのうちな。ロウェナも、きっとすぐに強くなるさ」


 俺がそう言って誤魔化すと、ロウェナはまだ少し不満そうだったが、こくりと頷いた。


 その小さな横顔を見ながら、俺は思う。

面倒なことになった、と思っていた旅は、いつの間にか、かけがえのないものに変わりつつある事に。


 この子の不満そうな顔も、笑顔も、泣き顔も、全部ひっくるめて、俺の旅なのだ。


 さて、明日は滝へ向かう準備でも始めるとしよう。


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