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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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実力の証明


 ギルドの奥にある訓練所へと、俺たちは案内された。


 先ほど声をかけてきたゴツい男――どうやらギルドの幹部らしい――は、豪快に笑いながら俺の肩を叩く。



「俺はバルガス。このギルドで、新人の教官なんかもやってる。お前さん、面白い度胸をしてるじゃないか。気に入ったぜ」


 バルガスと名乗った男は、壁に立てかけてあった訓練用の武器の中から、ひときわ大きな木製の大剣を軽々と手に取った。

「さて、そっちも好きなのを選びな」



 俺も並べられた木剣の中から、一番手に馴染みそうなブロードソード型のものを選んだ。

ずしりとした重みが、どこか懐かしい。



 だだっ広い訓練所の中央で、俺とバルガス教官は静かに相対する。



 その周りでは、俺たちの模擬戦を聞きつけた冒険者たちが、やじ馬のように集まってきていた。


「おい、賭けようぜ! あの兄ちゃんが何秒持つか!」

「秒殺に決まってんだろ! 相手はバルガス教官だぞ!」

「子連れでいきなり昇級試験とか、無謀にもほどがあるぜ」

「まあ、見ものだな」

 


 聞こえてくるのは、そんな声ばかりだ。

圧倒的に俺が不利。まあ、当然の反応だろう。



 ロウェナは、受付の女性と一緒に、訓練所の隅で心配そうにこちらを見守っている。

その小さな手を固く握りしめているのが見えた。


 バルガス教官は、大剣を肩に担ぐようにして構え、ニヤリと笑った。

「いいか、制限時間は五分間。その間に、お前の実力を俺に見せてみろ。試験なんだ、そっちから攻めてこないと始まらんぞ」



 その言葉を合図に、試験が始まった。



 俺は深く息を吸い、木剣を握る手に力を込めた。そして、一気に地面を蹴る。


 教官との距離を詰め、まずは様子見の一撃を叩き込んだ。



 ガキン!



 重いはずの木の大剣を、バルガス教官はまるで小枝のように軽々と扱って受け止める。



 俺は間髪入れず、角度を変え、速度を変え、連続で打ち込み続けた。


 乾いた木剣の打撃音が、訓練所内に小気味よく響き渡る。


 教官は、俺の攻撃を全て防ぎながらも、時折、カウンターのように鋭い一撃を返してきた。


 ヒュッ、と風を切る音と共に放たれるその一撃は、並の冒険者なら反応すらできないだろう。

 だが、俺はその全てを最小限の動きで躱し、あるいは木剣でいなし、攻める手を緩めない。



(さすがは教官、か。一筋縄ではいかないな……)

 周りで見ていた冒険者たちの囁き声が、少しずつ変わっていくのが分かった。 


「おいおい、嘘だろ……」

「あの兄ちゃん、教官の攻撃を全部捌いてるぞ!」

「それどころか、押し気味じゃねえか!?」



 三分を過ぎた頃、絶え間なく続く俺の攻撃に、ついにバルガス教官の防御がわずかに崩れた。



 ほんの一瞬の隙。



 俺はその隙を見逃さず、教官の脇腹に、鋭く、そして重い一撃を叩き込んだ。



 ドンッ、と鈍い音が響く。



 さすがに教官だ。体勢は崩れない。


 しかし、その動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。

(もらった!)



 その力の入らない一瞬を見逃さず、俺はさらに連続で斬りかかる。



 教官は、俺の追撃を読んでいたかのように、体勢を立て直しながら、下段から大剣をすくい上げるように切り返してきた。



 だが、俺はその動きすら読んでいた。



 俺は教官の動きに合わせるように、自分の木剣を、相手の大剣をすくい上げるようにして、力強く振り上げた。



 ガッ! と激しい音が響き、バルガス教官の大剣が大きく弾き飛ばされる。


 大きく仰け反り、がら空きになった教官の喉元に、俺の木剣の切っ先が、静かに、ぴたりと向けられた。



 訓練所が、一瞬、静まり返る。



 そして、バルガス教官は、向けられた剣先を見て、ハハッと豪快に笑った。



「……参った! 俺の負けだ!」

教官はそう言って、両手を上げた。


「お前さん、すげえな! 剣の実力だけなら、Aランクでも通用するぜ! だがまあ、ギルドに登録したてってことを考えて……よし、Bランクに昇格だ!」



 Bランク。



 その言葉に、俺は張り詰めていた緊張を解き、深く息を吐いた。

(……良かった)



 これで、少しは稼ぎやすい依頼も受けられるし余計な奴は手を出しにくくなるだろう。

ロウェナとの旅が、少しだけ安定する。



 訓練所の隅で、ロウェナが受付の女性から何やら説明を受けているのが見えた。


状況を理解したのだろう、パッと顔を輝かせ、ピョンピョンと跳ねて喜んでいる。


 俺はバルガス教官と、がっしりと握手を交わした。


 周りの冒険者たちからは、先ほどの嘲笑とは打って変わって、「すげえな、兄ちゃん!」「おめでとう!」といった手荒い祝福の言葉と、背中を叩く手荒い歓迎を受けた。



 やじ馬たちの輪を抜け、俺はロウェナの元へと戻る。


「え、えお! 」

 たどたどしい声で、ロウェナが俺を褒めてくれた。


 俺はロウェナの頭を優しく撫で、その小さな手を引いた。


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