ギルドにて、最初の試練
受付カウンターで、ギルド職員から二枚の登録用紙を受け取った。
俺と、そしてロウェナの分だ。
用紙に記載する内容は、驚くほどシンプルだった。
名前と年齢、そして出身地。
それ以外の欄は、ギルドへの同意書へのサインだけだ。
俺の名前はエドウィン。
年齢は28歳。
出身地は…正直に言うと、どこで生まれたか分からない。
拾われた身だし孤児院で育ったから。
まあ、領都の孤児院出身、とでも書いておくか。
ロウェナの分も、俺が代筆する。
名前はロウェナ。
年齢は…孤児院に連れて行こうとした時、シスターに聞かれたような気がするが、定かではない。
見た感じ、12歳くらいだろうか。
その年齢で書いておこう。
出身地は…黒葉の森で拾ったと書くわけにはいかないだろう。
適当に近くの宿場町の名前でも書いておく。
保護者のサインが必要な箇所には、俺の名前、エドウィンと書き入れた。
用紙を書き込んでいる最中に、職員が簡単にギルドのシステムについて説明してくれた。
「冒険者にはランクがありまして、最初は皆さんGランクからのスタートになります。Gから始まり、F、E…と昇級していき、最も高いのがSランクです。基本的には、ご自身のランクと同等か、それ以下のランクの依頼しか受けることができません。依頼をこなして経験を積んでいくことで、昇級試験を受けることができます」
などと、早口で説明してくれた。
ほとんど聞き流していたが、まあ、概ね理解した。
ロウェナは、職員の説明を不思議そうな顔で聞いている。
きっと、何を言っているのか、全く理解できていないだろう。
名前を書いた用紙を職員に渡す。
しばらくすると、職員が奥から、名前、階級、そしてギルドの紋章が刻まれた、小さな鈍色の金属プレートを二つ持ってきた。
「こちらが、冒険者ギルドの登録プレートになります。常に身につけておいてください。これで、あなた方は正式に、冒険者です」
プレートを受け取る。小さいがずっしりとした重みがある。
「階級は、Gランクになります」
プレートには、俺の名前『EDWIN』と『G』の文字が刻まれている。
ロウェナのプレートには、『ROWENA』と、同じく『G』の文字だ。
ロウェナにプレートを渡すと、珍しそうにそれを見つめ、早速首にかけていた。
ギルドを出ようと、ロウェナの手を引いて歩き出した、その時だった。
近くを通りかかった、いかにも中堅といった様子の冒険者の一団が、俺たちのプレートを見て、鼻で笑った。
「おいおい、子連れで冒険者かよ。しかも、そのガキ、せいぜい10そこそこだろ? 一体何ができるってんだ」
嘲笑する声が聞こえる。
まあ、無理もない。
子供を連れて冒険者になるなんて、普通じゃないだろう。
しかし、彼らに言い返すつもりはない。
面倒だし、それに、言われたところで何も変わらない。
俺はただ、手に持ったGランクのプレートを見つめた。
Gランク、か。
確かに、ここから始めるのが普通だろう。
だが、正直言って、Gランクの依頼では、ロウェナと旅をしていくのに必要な資金を効率よく稼げるとは思えない。
そのためには、もっと高ランクの依頼を受けられるようにならないと。
俺は再び受付カウンターに戻った。
職員はすでに他の客の対応をしていたが、俺に気づいてこちらを向いた。
「あの、すみません」
「はい、何か?」
「今すぐ、このランクを…Gランクを、上げることはできませんか?」
俺の言葉に、職員は明らかに困惑した顔になった。
「え…? 申し訳ありません、ランクの昇級は依頼をこなして、ギルドの評価を上げてからでなければ…」
「いや、試験とか、何か別の方法で、実力を証明して、今すぐランクを上げる方法はないか?」
俺は食い下がる。
これは、単なる思いつきではない。
ロウェナを守るためにも、必要なことだ。
職員はますます困った顔になる。
「そういった例外的な措置は、通常…」
その時、受付の奥から、その様子を見ていたらしい、一人のゴツい男が、豪快な笑い声と共に声をかけてきた。
いかにも、幹部といった貫禄がある。
「はっはっは! 面白いことを言う奴がいるじゃねえか!」
男はカウンターの奥から出てきて、俺たちの前に立った。
「おい、兄ちゃん。実力でランクを上げたいだと? いいだろう!」
男は俺の装備と、隣に立つロウェナを見て、ニヤリと笑った。
「俺と模擬戦でもしてみるか? その結果次第で、お前のランクを考えてやるぜ!」
模擬戦、か。
これは願ってもない機会だ。
ここで実力を示せば、ロウェナを連れていても、ある程度の信頼を得られるかもしれない。
「望むところです」
俺は、迷いなく答えた。
ロウェナは、何が起きているのか分からず、俺の服を掴んでいる。




