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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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『金色の秤亭』を目指して


石畳の道は広く、領都のものとは比べ物にならないほど綺麗に舗装されている。



両側には木造の建物が軒を連ねており、一階は商店や工房になっているようだ。


パン屋の香ばしい匂い


香辛料の異国的な匂い


鍛冶屋から響く金槌の音


物売りの威勢の良い声


聞き慣れない言語が入り混じった人々の話し声。



何もかもが活気に満ち溢れている。



行き交う人々の数も半端じゃない。


商人、職人、冒険者らしき一団、身なりの良い貴族風の人物、そして様々な地方から来た旅人たち。


皆、足早に、あるいは楽しそうにこの街を行き交っている。



ロウェナは、その光景に完全に圧倒されているようだった。


俺の外套の裾をキュッと掴み、キョロキョロと周りを見回している。


その瞳は、驚きと好奇心でいっぱいに輝いていた。


初めて見る、こんなにも大きな、賑やかな街。そりゃあ、驚くだろう。



門で受け取った、孤児院への紹介状を懐にしまう。


衛兵の上司は親切だったが、まずはドレイクの尻尾をどうにかしたい。


この重くて生臭い尻尾を背負ったまま、街中をうろつくのは面倒だし、何より邪魔だ。


それに、素材として売れれば、当面の旅費になる。



孤児院に行くのは、尻尾を売って、少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。



目指すは、商隊から聞いた『金色の秤亭』だ。


南地区にあると言っていたが、この街は広大すぎて、南地区がどこなのかも分からない。


まあ、誰かに聞けばいいか。



ロウェナの手を引いて、街の中へと歩き出した。


ロウェナは、まだ少し戸惑っているようだが、俺のそばから離れようとしない。


通りかかる商店のショーウィンドウや、露店に並べられた珍しい品々に、ロウェナは目を奪われている。


時には、指差して「あれ、何?」とでも言いたげに俺を見上げる。


俺は知っているものなら簡単に説明してやり、知らないものなら一緒に首を傾げる。


言葉はなくても、意思の疎通はできる。



大通りから少し外れた小道に入ると、喧騒はいくらか和らいだ。


住宅街らしき静かな通りを歩きながら、誰か『金色の秤亭』の場所を知っている人を探す。


ちょうど、店の前を掃いていたらしい、人の良さそうなおばあさんがいた。


「すいません、ちょっとお尋ねしてもいいですか?」


「はいはい、なんでしょうね」


おばあさんは、俺とロウェナを見て、にこやかに微笑んだ。


「『金色の秤亭』という宿屋を探しているんですが、ご存知ですか?」


俺が尋ねると、おばあさんは少し考えた後、頷いた。


「ああ、『金色の秤亭』さんね。南地区にある宿屋ですよ。この道を真っ直ぐ行って、大きな広場に出たら、そこを左に曲がって…」


おばあさんは、親切丁寧に道を教えてくれた。


身振り手振りを交えながら説明してくれたので、大体の場所は理解できた。


「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえ、旅の方かい? 気をつけていきなさいよ」


おばあさんに礼を言って、再び歩き出す。


ロウェナは、おばあさんが俺に道を教えている間、じっとその様子を見ていた。



教えてもらった道を頼りに、南地区を目指す。


街は入り組んでいて、同じような建物が続いていると方向感覚を失いそうになる。


それでも、時折現れる特徴的な建物や、広場を頼りに進んでいく。



ロウェナは、もう最初の頃のような怯えはない。


新しい街の全てに興味津々といった様子で、俺の隣を楽しそうに歩いている。


時折、俺の顔を見上げて、ニコッと笑う。


その笑顔を見ると申し訳ない気持ちが込み上げる。



ドレイクの尻尾は、相変わらず左肩でずしりと重い。


早く売り払って、身軽になりたい。


そして、ロウェナに何か甘い物や温かいものでも食べさせてやりたい。



初めて見る街の景色は、俺にとっても新鮮で、少しだけワクワクする気持ちもあった。


ノーレストの街で、何か起こるだろうか。


ドレイクの尻尾は売れるだろうか。


孤児院でロウェナは受け入れてもらえるだろうか。


そして、その後の俺の旅はどうなるのか。



分からないことだらけだが、まあ、それが旅だ。



気ままに、気の向くままに。


そして、今はまだ、このロウェナと一緒に。




教えられた道を歩き続け、やがて、少し大きめの建物が見えてきた。


看板には、確かに天秤のような絵が描かれている。


あれが、『金色の秤亭』だろうか。


期待と、ほんの少しの緊張を胸に、俺とロウェナは目的の宿屋へと近づいていった。


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