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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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ノーレストの門にて


遥か遠くに見えていた街並みが、いよいよ目の前に迫ってきた。


城壁は高く、頑丈そうで、門も複数の兵によって守られている。


これまで立ち寄ったどんな宿場や村とも比べ物にならない規模だ。



これが、ノーレストの街。


代官騎士様が話していた王都ほどではないだろうが、かなりの賑わいを見せているに違いない。



門の手前には、旅人や商人が列をなしていた。


街に入る為に俺たちも列に並び、順番を待つ。


ロウェナは、初めて見る大きな街の門に、目を丸くしている。



やがて、俺たちの番が来た。


衛兵は皆、規律正しく、どこか威圧感がある。


領都の衛兵とは随分違うな、などと考えながら、俺は彼らの指示に従った。


「荷物を検める。背囊を開けろ」


淡々とした口調だ。

言われるがままに背囊を下ろし、蓋を開ける。  


中身を確認した衛兵が、次に俺の左肩に縛り付けている、巨大なドレイクの尻尾に目を留めた。



「…これはなんだ?」

 

その衛兵の隣に立っていた、少し若そうな衛兵が、興味と同時に警戒の眼差しを向けてきた。



「ドレイクの尻尾です」



俺は正直に答えた。


嘘をついても仕方がないし、隠せるようなサイズでもない。


衛兵達は驚いた顔で俺を見上げる。



「ドレイク!? あの!? どうやって手に入れたんだ?」

「ああ、黒葉の森で、こいつと遭遇しましてね」



俺は隣に立つロウェナを指差した。


ロウェナは、じっと俺たちのやり取りを見ている。


「この子が、森の中で何かに追われていたんです。俺が見つけて保護したんですが、その追いかけていた『何か』が、このドレイクだった」



「運が良いのか悪いのか、そいつは既に手負いだったようで。それでもかなり手強くて…まあ、必死に逃げ回りながら戦って、たまたま弱点を突くことができたんでしょうね、尻尾を切り落としたら撃退することができました」




偶然、たまたま、必死に逃げ回って。


あくまで、凄腕の剣士が魔物を討伐したわけではない、ただの旅人が運良く生き延びた、というニュアンスで話す。


単独でドレイクに致命傷を与えたなんて、正直に言っても信じてもらえないだろう。


面倒なことになるだけだ。

 



「手負いだったとはいえ、ドレイクを…一人で、ですか?」


若い衛兵はまだ疑っているようだった。無理もない。


「ええ、まあ。ほら、これ。森の中で拾ったんですが、黒葉の森の地図みたいです」


俺は背囊から人攫いの小屋で見つけた森の地図を取り出し、若い衛兵に軽くひらひらと見せた。


正確には、見せつける、という感じだ。


これで少しは信用してもらえるだろう。



明らかに詳細な地図を見た若い衛兵は、さらに驚いた顔になった。



「こ、これは…」


「で、まあ、この子を一人で置いていくわけにもいかないんで、街まで連れてきたってわけです」


話を締めくくる。さて、どう出るか。




若い衛兵は地図から目を離し、俺とロウェナ、そしてドレイクの尻尾を交互に見比べる。


そして、意を決したように言った。



「分かりました。少々お待ちください。上司を呼んで参りますので、あちらの詰所で待っていていただけますか? 」


まあ、そうなるだろう。面倒だが、仕方ない。



「分かりました」



俺は頷き、ロウェナの手を引いて、案内された詰所の中に入った。


質素な部屋で、長椅子がいくつか置いてあるだけだ。


ロウェナと一緒に長椅子に腰掛け、静かに待つ。


ロウェナは不安そうな顔で、俺に寄り添ってきた。




しばらくして、扉が開く。


若い衛兵と共に部屋に入ってきたのは、鎧を着込んだ、いかにも経験豊富そうな中年衛兵だった。


彼がこの門の責任者だろう。



「話は若い者から聞いた。貴殿が、黒葉の森でドレイクと遭遇し、撃退したと?」


上司の言葉は簡潔だ。

俺はまっすぐその目を見て答える。



「間違いありません」


「この地図は?」


地図を指差す。



「森の奥にあった、壊れた小屋の中から見つけました。この森の詳細が載っていて、助かりました」



俺は地図を広げ、上司に見せた。

上司は地図を一目見て、その詳細さに驚いたようだった。

 


「これは…! よくこんなものを見つけられたな。それで、ドレイクと遭遇した場所と、その小屋の場所を教えてもらえるか? 」



俺は地図の上で、大体の場所を指差した。


ドレイクと戦ったのは街道沿い。

小屋はそこから外れた場所だ。



「正確な場所は、この地図でないと説明しづらいですね。申し訳ありませんが、この地図は旅の途中なので、お渡しすることはできません。ですが、もし必要でしたら、写しを取っていただいて構いませんよ」



この地図は、旅を続ける上で非常に役に立つ。


人攫いが使っていたものだから、街道に載っていない情報も含まれている可能性がある。


おいそれと手放すわけにはいかない。



上司は少し考えた後、頷いた。


「写しか…よし、分かった。では、少し待っていてくれ。この地図の詳細を確認させてもらう」



そして、若い衛兵に地図を渡して何か指示を出した。



「ところで、この少女についてなんだが…」



俺はロウェナに、ここで少し待っているように伝えた。


ロウェナは不安そうだったが、頷いてくれた。


俺は上司に声をかけ、部屋を出ての隅の方へ移動した。

ロウェナに聞こえないように、声を潜める。



「実は、この子には帰る場所がないんです。森で一人だったところを保護しました。話すことも、あまり得意ではないようで…」



ロウェナが話せないこと、そして孤児であることを説明する。


今後のことを相談したい、と正直に伝えた。



上司は俺の話を黙って聞いていた。


そして、俺の顔と、部屋の中でじっと座っているロウェナの顔を交互に見た。



「なるほど…帰り先のない子供、か」



少し考え込んだ後、上司は懐から紙とペンを取り出した。



「この街にも、孤児院がある。そこでなら、この子を預かってもらえるだろう。私が紹介状を書いてやろう」



思いがけない申し出だった。

衛兵の職務とはいえ、ここまで親身になってくれるとは。


「ありがとうございます。助かります」


俺は素直に礼を言った。

これで、ロウェナの居場所は確保できる。



上司が紹介状を書いている間、若い衛兵がロウェナのそばに歩み寄っていた。



どうやら、地図の写し取りは彼に任されたらしい。


彼は地図から目を離し、ロウェナに話しかけ始めた。

ロウェナは初めは戸惑っていたが、若い衛兵が剣の柄に付けていた小さな飾りに興味を示し、二人はすぐに打ち解けたようだった。



言葉は通じなくとも、身振り手振りで、衛兵はロウェナを笑わせている。


その光景を見て、俺は少しだけ安心した。

 


上司から紹介状を受け取り、地図も返してもらった。


感謝の言葉を伝え、俺はロウェナを迎えに行った。


若い衛兵に手を振って別れを告げるロウェナの手を引く。


「行こう、ロウェナ。街に入るぞ」



ロウェナは、俺の言葉に頷き、小さな手で俺の手を握り返した。


ノーレストの大きな門をくぐる。


賑やかな街の喧騒が、耳に飛び込んできた。   



たくさんの人々の話し声、荷馬車の軋む音、商店の呼び込みの声。


活気に満ち溢れている。


さて、まずはどこへ行こうか。孤児院に行くのは、ロウェナに少し街を見せてからでも遅くはないだろう。 



商隊から聞いた『金色の秤亭』も気になる。ドレイクの尻尾は、重くて邪魔だ。


大きな街の入口で、俺とロウェナは立ち止まった。


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