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【23000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
精霊のヴェール編

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面倒な連中と、変わる景色


商隊と別れ、俺とロウェナは再び二人きりになった。


ロウェナは、商隊の人にもらった焼き菓子の袋を大事そうに抱きしめている。


そして、時折、袋の中から一つ取り出し、ゆっくりと味わうように食べていた。



「ロウェナは、甘いもの、好きか?」


俺が尋ねると、ロウェナは何も言わず、焼き菓子を一つ手に取り、俺に差し出しながら小さく頷いた。


その仕草だけで、彼女が甘いものが好きなこと、そして、俺にも分けたいという気持ちが伝わってくる。


俺は笑ってそれを受け取り、一口齧った。


素朴な味だが、優しい甘さだ。



「ありがとう。美味しいな。街に着いたら、別の美味しい甘いものを食べようか。大きな街なら、きっと色々な店があるはずだ」


俺がそう提案すると、ロウェナは食い気味に、勢いよく頷いた。


そのキラキラした瞳を見ていると、連れてきてよかった、と少しだけ思えた。




しかし、旅は甘いお菓子だけではない。


その日の夜。


街道から少し離れた場所で、いつものように野営の準備をしていると、複数の気配を感じた。


それは、獣の気配とは違う、明らかに人間の、しかも悪意を持った気配だ。



…野盗か。



面倒だな、と内心で舌打ちする。


なぜこうも余計なことが起こるのか。

まあ、商隊と別れた時点で、ある程度は警戒はしていたが。


焚き火に火を灯し、ロウェナを毛布にくるんで寝かせた。


幸い、ロウェナは疲れていたのか、すぐに眠りについた。


気配に気づいていないようだ。



暗闇の中、木の脇から四つの影が現れた。



男たちだ。

手には武器を持っている。


「おいおい、ちっちゃな子供と一人か。これは美味いカモだぜ」


「商隊にゃ手ェ出せなかったが、これなら御褒美ってヤツだ」


彼らは分かれ道で商隊と別れた俺たちを見て、後をつけてきたのだろう。



馬鹿な連中だ。



「…悪いな。今、俺は機嫌が良くないんだ」


俺は静かに、腰の剣の柄に手をかけた。


野盗たちは、俺の言葉を聞いてニヤニヤと笑った。


舐められている。



一人が真っ先に飛び出してきた。


剣を振りかざして、単純な突進だ。




チッ。本当に馬鹿だ。



俺は動かない。


野盗の剣が俺の目の前に迫った、その時。



スッ



剣を抜く音は、まるで呼吸のようだった。


一瞬の閃き。



俺の剣先が、野盗の心臓を正確に貫いていた。野盗は何も言えず、そのまま倒れ伏した。



「なっ!?」



残りの三人が凍り付く。


彼らの顔から、先ほどの嘲りが消え失せ、恐怖に変わった。



「テメェ!」



リーダー格らしき男が、怒鳴りながら突っ込んでくる。


だが、先ほどの奴よりはまし、という程度だ。



ザンッ!



俺は軽く剣を薙ぎ払い、男を両断する。


肉を斬る、鈍い感触。

ドレイクとは違いとても柔らかく感じる。



あっという間に、二人。


残りの二人は、完全に戦意を喪失したようだった。


悲鳴を上げ、我先にと森の中へ逃げ出した。



「おい、待て!」



一人が叫ぶが、もう一人は振り返りもせず、暗闇の中に消えていく。



…面倒だな。逃がすのも後味が悪いし。



俺は、倒した野盗の一人が落としていった剣を拾い上げた。



そして、逃げていく二人のうち、近い方…最初に逃げ出した方目掛けて、その剣を投げつけた。



ヒュンッ!



剣は夜の闇を切り裂き、吸い込まれるように飛んでいく。



遠くで、「ェッ!」という、蛙が潰されたような声が聞こえた。



それと、何かが地面に落ちる鈍い音。


そして、木々の間を駆け抜ける、もう一人の野盗の足音だけが残った。



まあ、一人くらいなら、この広い世界で二度と会うこともないし、顔も覚えていないから、何処かで会ってもわからないだろう。



面倒はこれくらいで十分だ。


死体をそのままにしておくのは、臭いで別の魔物を呼び寄せる可能性がある。


これは面倒だが、仕方ない。



俺は倒れた野盗の死体をそれぞれ掴み、夜営場所から離れた、森の方へ投げ捨てた。


血の跡が残るかもしれないが、この暗闇では見えないだろう。



野営地に戻ると、ロウェナはまだぐっすりと眠っていた。


幸い、戦闘の音には気づいていないようだ。

焚き火に薪をくべ、再び静かな夜が訪れる。



朝になり、ロウェナが目を覚ました。


焚き火のそばで朝食の準備をしていると、ロウェナが街道の方を見て、何かを訴えるように俺に話しかけてきた。


血の匂いか、あるいは地面の血痕に気づいたのだろう。


身振り手振りで、昨夜何かあったのかと尋ねている。



俺は何も言わず、ただ、腰の剣の柄頭を撫でた。


そして、ロウェナの頭を優しく撫でて

「大丈夫だ」とだけ伝えた。



ロウェナは理解したようで、それ以上は何も聞いてこなかった。




その後も、旅は続く。




景色は少しずつ変わっていった。


丘陵地帯を越えると、遠くに民家が点々と見えるようになる。


人の営みが、少しずつ近づいてくるのを感じる。


農家だろうか、畑を耕している人々の姿や、家畜が草を食んでいる姿も見かけるようになった。


街道を行き交う人々の数も増えてくる。


皆、ノーレストの街へ向かっているのだろう。活気が感じられるようになった。



野盗との一件以外は、特に大きな面倒事もなく、順調に進むことができた。


ロウェナも、新しい景色を見るたびに目を輝かせ、俺にそれを伝えようとする。




そして、ついに。




遥か遠くに、いくつかの塔のような建物が見えてきた。



あれが、ノーレストの街だろう。


近づくにつれて、建物の数が増え、壁に囲まれた大きな街の姿が見えてくる。


旅の、一つの区切り。



俺はロウェナの手を引いて、ノーレストの門へ向かって歩き出した。


街の賑わいが、壁の外からでも伝わってくる。


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