表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/115

92,亜人。

 

 第2層の序盤は、実に順調だった。


 蟲型魔物との遭遇はなし。ついでに、ただのネズミとの遭遇もなし(当然、こんなところにはいるだろうしな)。


 ただし、死体との遭遇もなし。

 どうにも不安になってくるね。会員№252の死体が、ここのどこかに転がっていて、〈キー〉を所持していた──なんて確率は、どの程度のものだろうか。


 ちなみに第何層といっても、その層はどこまでも同じ深度にあるわけではない。

 緩やかにくだり、時には天然の階段状となり、ぐんと下がる。


 探索ルートとは、山登りの反対のようなものだ。先人が見つけていった『通過できるルート』を進むまで。よって武器以外の装備品も、登山のそれと似ている。


 一休みして、水分と行動食をとることにした。


「この人数で、〈魔月穴〉内で野営するのは自殺行為だ。というわけで計画通りに進まなければ、第3層に達せずとも引き返すことになる」


 エンマがうんうんと同意する。


「何事もリスクを取らないのが大事ですよね!」


「あれ、リッちゃん。火の玉が飛んでくるよー」


 あははと笑いながら、斜面の下のほうを指さすスゥ。

 スゥって、本当にネズミがかかわらないと肝が据わっているよなぁ。


 一方、エンマは悲鳴をあげて、


「火の玉ってなんですか! ここはアンデッドとかでないと聞いたのに! ゴミ箱に避難させてくださいよぉぉぉ!!」


「落ち着け、エンマ。情けない」


「巨大ゴキで死にかけていた人に言われたくないです」


「あれは火の玉じゃない。松明をもって走りあがってくる人間だ」


 基本、暗闇が包んでいる〈魔月穴〉内だ。光精霊のスキルでもなければ、松明などは必需品。


 やがてその人物の姿が見えてきた。20代の女性で、何やら血相を変えている。

 おれたちのもとまで来ると、肩で息をしながら、


「お願いします皆さん! 助けてください!」


 おれはスゥと顔を見合わす。

〈魔月穴〉探索の暗黙の了解は、他人のことは放っておけ。人助けしていると、自分たちの身まで危なくなる。


 ただし、それは冒険者には当てはまらないルールだろう。

 冒険者は人助け精神でできている。おそらくな。


「どうしましたか?」とスゥ。


「その、あの、わたしはハンナといいます。仲間たちともぐっていたんですが、突然、たくさんの亜人たちに襲われまして。それで、仲間の二人は、亜人たちに連れていかれてしまいました。お願いします、彼らを助けてください!」


 ジラ族が、こんなところまで上がってきていたのか。

 それも、集団で?


「亜人は何体いたか、分かるか?」


 おれが問うと、100体はいた、という驚愕の返答。


 100体も第2層まで上がってきたと?

 これまでの目撃情報は、せいぜい数体で移動しているものだったが。それに人類に友好的ではないとはいえ、向こうから集団で人間を襲撃してくる、というのは聞かない話だ。


 ハンナの嘘だろうか。

 助けを求めておいて、実は盗賊であり、油断したところを襲ってくる。

 という事件もある。


 ただこのハンナの様子を見るからに、助けを求めてきたのは演技ではないようだ。

 ただ引っかかるところがあるのは間違いないが……


「スゥ。急いだほうがいいな。ハンナさんの仲間が、どこまで連れていかれるか。せめて第3層内で追いつけないと、まずいことになる」


「うん、そうだね。ハンナさんにはどうしてもらう?」


「一緒に来てもらおう。大丈夫ですか、ハンナさん?」


「え、あ、はい! もちろんです!」


 この人は、何かが胡散臭い。

 さて、なんだろうか。


 とにかく、こういうときは性善説で動くとしよう。

 実際にハンナの仲間が亜人たちに連れさらわれたというのなら、さっき言ったように、せめて第3層内で追いつき、救出する必要がある。


 それより深く潜られると、厄介極まりないことになるからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ