84,デスサイズの男。
素晴らしいタイミング(皮肉だよ)で、二人の都市警察官まで駆けこんできた。
「何事ですか?!」
すると先ほどのグループの女が、おれを指さして。
「この人、人殺しです!」
こらこら。人を指さすな。
違いますよ、おれは第一発見者──と弁解する間もなく、
「現行犯で逮捕する!」
と手錠を出してくる始末。
まーてよ。こーれは、仕込みか?
ノーランを消したうえ、接触しにきたおれに濡れぎぬを着せるという、いわば一石二鳥の策略にはまろうとしているのか、おれは?
まず、そもそもがこの殺されている男がノーランなのかもハッキリしないしな。
とりあえず死体の顔貌は、ディーンから聞いている通りの人相だが。
おれは身を翻し、小窓のところまで移動した。
あいにく窓は小さすぎて、子犬じゃなきゃ脱出できるサイズじゃない。
「まて逃げるな!」
と都市警察官が突っ込んでくる。
おれは格闘戦とか、得意じゃないんだよ。しかしここで警官を凍結させたりしたら、いよいよ敵の思うつぼな気がしてきた。
気乗りしないが。
デバフ殺法:第十五の型【物事は大小で決まりません、あしからず】。
デバフ効果は、『生命体を縮小する』。
ただしこのデバフ、ほかのデバフとは違い、他人には使用できない。
まぁ、だからあんまり使うこともないと思っていたが。
小窓を薄く開け、そこに片手を置いた状態で、自分に付与。
窓辺へと意識を向けることで、そこに向けて身体が縮んでいく。
これで小窓から外に出た。
落下中に【物事は大小で決まりません】解除。
無事に闘技場の外に着地。
小さくなったり元のサイズに戻ったりで、どうも頭がくらくらする。
絶対に脳細胞とか臓器にいいことじゃないよな。多用しないでおこう。
スゥと落ち合う場所を決めていなかったのは痛いな。
まさか、警察に追われるハメになるとは思わなかった。
ひとまず冒険者出張所に匿ってもらうか?
脳内で歓楽都市ヴィグのMAPをイメージしながら、目当ての建物を目指す。
レグでは表向き魚屋だったが、ここはまた風変わりな建物だった。
円柱形で、入口らしき場所がない。
「なんだ、ここは? 誰にも入られたくない、というわけか?」
「なんだ、おまえは?」
振り返ると、青い髪の長身の男が、買い物袋を抱えて立っている。背中には棒状の武器を背負っていた。
「もしかして、出張所の冒険者イライアスか? おれは本部から来たリクだ。実はトラブルに巻き込まれてしまって。少しばかり匿ってくれないか?」
「トラブル? どんな、トラブルだ?」
「あー。殺人犯に間違えられて」
イライアスはリラックスした様子で言う。
「そうか。それは大変だったな。こっちに来て早々、まさか殺しの容疑をかけられるなんて。なら事情がはっきりするまで、うちのところで潜んでいるといい」
「ああ、そうしてもらえると助かるよ」
良かった。出張所側の冒険者が塩対応かもしれないと心配していたが。このイライアスは、話の分かる相手のようだ。
イライアスは荷物を近くの階段に置き、棒状の武器を手に取った。
「ちょっと待ってくれるか? 悪いね。久しぶりすぎて、あー、展開するのはこうだったかな」
ただの棒状かと思ったが、これは戦武器シリーズだ。
展開されると、巨大な鎌刃が出現し、あっというまにデスサイズとなった。
「よし、これでいいだろう」
「あーイライアスさん。どうしてデスサイズなんかを展開しているんだ?」
「それはだなー、リクさん。あんたを警察に突き出すためだよ。俺はな、面倒ごとが大嫌いなんでな」
「……いやぁ、その気持ちが凄ーーーく分かってしまう」




