69,ただの喧嘩じゃ?
──リク──
鍵で、暗号解読器を開ける。
その中のクリスタルを確認すると、コア機関の印が刻まれていた。
「これで、コア機関が関与している『かもしれない証拠』にはなるようだな」
動かぬ証拠とまではいかないが、これで〈王〉も、〈紫陽夢〉掃討から手を引く『言い訳』ができることだろう。
というわけで、おれたちは地上に戻った。
全身に浴びたドロドロを洗い落とすため、スゥ、ルテフニアがいったんパーティ離脱。
というか、ルテフニアは戻ってきてくれるか不明。
こっちは時間が惜しいので、ひさびさの『外の世界』でくたびれた様子のエンマを連れ、〈王〉を探す。
すぐに見つかったのは、〈王〉の軍。兵たちがなぜか手持無沙汰の様子で、立っている。
ヒマそうだね。いいことだ。
「すみませんが。〈王〉はどちらに?」
と、兵の一人に声をかけたとたん、敵意まるだしの目で見返された。
「何者だ? 〈王〉を狙う刺客か? 連行する!」
取り押さえられそうになったので、とっさにビー玉を当てて、凍結デバフ付与。
ところで凍結デバフも、人体に影響を残さないよう調整できるようになった。もちろん必要なときは、そのまま命を奪うこともできる、が。
エンマが叫ぶ。
「兵士を氷づけにして、どうするんですかぁぁぁ!」
「だって、悪気はないんだよ」
当然、ほかの兵たちが取り囲んできた。たしかに凍結したら敵性行為と見なされるのは致し方ない。
おれが困っていると──となりのエンマはゴミ箱を全力で探している──ケイが速足でやってきた。
兵たちに鋭く命じる。
「この方は、閣下の個人的な客人です。無礼を働くこと、私が許しません」
とたん兵たちが恐れをなした様子で、謝罪して散っていった。
さすが〈王〉の右腕。
「どうもケイさん。ちょうどよかった。〈ガーディアン召喚函〉破壊工作にコア機関が関与している『動かぬ証拠』を見つけたんだ。是非とも〈王〉に提示し、〈紫陽夢〉掃討を中止してもらいたい──ところで、いま兵たちは何をしていたんだ?」
「待機中です」
「てっきり〈紫陽夢〉の拠点に総攻撃をしかけているのかと思っていたが──いや、待機中で良かったんだが」
「はい。はじめは総攻撃のはずだったのですが。〈紫陽夢〉のリーダーが姿をあらわしまして。ちょうどハーラン様が自ら指揮を執っている部隊のところに」
「で?」
「〈紫陽夢〉リーダーのヴェンデルは、ハーラン様とは古くからの付き合いがあります。ざっくらばんに言うなら、お二人は親友同士でした。その親友同士が戦場で出会えば、何が起きるか」
ヴェンデルはハーランと蹴りをつけたそうだったし、ハーランもなんだかんだで、最後は自ら戦いたがる性格に思える。
「あー、決闘的な?」
「はい、まさしく。ハーラン様は全軍に命じられました。自分たちの決着がつくまでは、攻撃を中止するようにと」
「それで、決着は?」
ケイは、どことなくウンザリした様子で言う。
「あなたのお力でしたら、お二人を止めることができるかもしれませんね」
ということで、ケイの案内で、ハーランとヴェンデルの決闘現場まで向かう。
そこは、ただの通りだったが、いまはギャラリーも多い。つまり〈紫陽夢〉のメンバーと、〈王〉の兵たちだな。
予想していたとおり、ハーランとヴェンデルは激突していた。
だた少し予想と外れていたのは、血なまぐささがないことか。
ヴェンデルが、燃えるクレイモアを叩き込みながら、
「とっとと、お前の顔をぶん殴って、そのにやけたツラを潰してやればよかったよ。だがようやく、それが実現できそうだ!」
それに対して、身軽に回避しながら、目で追うのも難しい速度の槍の突きを放ちながら、ハーランが煽り返す。
「お前にそんな大それたことができるのか? おい、おれにはまだ指一本、触れることもできてないぞ」
この激しい戦いのとばっちりで、まわりの建物は崩壊していく。
だが当人たちは、お互い、まだほとんどダメージを受けていないが。
「……これ、もうただの喧嘩じゃないのか」
凍結デバフの出番でーす。




