66,デバフ・クリエイト。
魔物が敵ならば勇敢なスゥが、次々と化けネズミを撃破していき、戦況は一転。
といってもスゥも、いわば単体攻撃アタッカーだが、ルテフニアと違うのは、戦剣〈荒牙〉におれの『デバフ発動準備』を付与している点。
第三の型【だいたいのものは燃える】。
状態異常系のデバフ。対象に燃焼効果を付与する。
斬撃を受け燃え出す化けネズミに、第二十の型【嫌なことは分け合おう】も同時発動。
付与したデバフと同じものが、隣の敵にも付与される。
燃焼デバフの強みは、ほかのものには燃え移らないこと。
デバフの火炎に焼かれる化けネズミたちの間を駆け抜け、スゥがさらなる獲物を狩っていく。
おれはビー玉射出器を拾い上げて、コア機関の工作員たちの死体のもとへ。
死体の残骸の中から、ほどなく鍵を発見した。
「よし。スゥ、ルテフニア、鍵を見つけたぞ! 長居は無用だ。とっとと退却しよう」
「もう片付いたけどね」
スゥが達成感の溜息。
とたん化けネズミの数多の死体が、ずるずると床を滑っていき、一か所に集まる。
そこには、一つの巨大な目玉が浮いていた。
「わっ。なんだろ、あれ?」
ルテフニアが警戒をにじませた声で言う。
「化けネズミを創り出したものの大元ではないのか? ただのネズミを化けさせたのは、あの目玉の魔物に違いない」
スゥが顔を真っ青になる。
「え……するとやっぱり、いまわたしが斬っていたのは、ただのネズミ?」
なるほど。ネズミ型の魔物ではなく、ただのネズミを化け物化させた、いわば創造した魔物がいた、ということか。
それがあの目玉の魔物。
その目玉の魔物が化けネズミの死体を纏い始め、巨大な人型形態と化していく。
それが両腕を叩き下ろすと、この場の床が崩落。
おれたちは、さらに下へと落ちた。
落下中。
おれは「うえ、また落ちるんかいぃぃ」と嘆いていたが。
アタッカーの二人、スゥとルテフニアは、落下しながらも目玉魔物と戦っていた。
しかし目玉魔物の肉体は、あまたのネズミ化け物の死体からできている。
いくら斬撃をあたえても、死体肉はすぐに修復されていく。
それはスゥが付与したダメージデバフ爆裂傷も同じ。
爆裂傷が大きな範囲のダメージを与えても、そこの死体肉塊さえ、すぐさま修復されてしまう。
それを眺めていたら、こっちは着地に失敗した。
「痛い」
目玉魔物はさらなる化けネズミの死体を取り込み、膨張していく。
「攻撃してもすぐに再生される! これは一撃で跡形もなく吹き飛ばすしかないみたい、リッちゃん!」
だが爆裂傷の持続ダメージデバフ以上の、一撃の破壊に特化したものはない。
そもそもデバフだからな。必殺技じゃないんで。
それでも条件が整えば、爆裂傷の破壊力は高く、それで充分だと思っていたが。
跡形もなく吹き飛ばせだと?
「まて。ちょっと考えるから。時間を稼いでくれ」
その場にあぐらをかいて、熟慮黙考。
デバフ殺法を組み立てるとき、まず凍結デバフなどは、定番なのですんなり決まった。
ただそれらは、どこからか降ってきたわけではない。
おれが自身で構築したものだ。
デバフ内容を決めたうえで、そのデバフを創り出す。
デバフ付与スキルとは、すなわち《デバフ・クリエイト》スキルのこと。
ゆえに、いまここで新たなデバフを創り出すことは、可能。
原理上は──。
しかし、だ。創造主の限界をこえたものは、創れない。
師匠ならば限界などないだろうが、こっちは限界の天井を意識しながら、創らなきゃならん。
しかも『跡形もなく敵を消し飛ばす』能力という、デバフ的ではないものを。
デバフというのは、弱体化能力。跡形もなく吹き飛ばすのは、脳筋の攻撃で、デバフの洗練さとは遠いところにある。
まぁ、そこは発動条件を難しくすることで、カバーできるか。
「リッちゃん! お茶を出そうか? お茶を飲んで、もっとリラックスしたいんだよね、リッちゃん!?」
スゥが嫌味を言ってきているということは、よほどピンチということだ。
「──分かったって。ひとつ、新たなデバフを創った。しかし発動条件が面倒なので。ここからは、お前たちの連携が大事だぞ、スゥ、ルテフニア」




