56,第二の型【ヒットポイント0】。
──あれはまだ、おれとマイリーが弟子として顔をあわせて、日にちがたってなかったころ。
つまり、おれたちが生まれながらの犬猿の仲、きっと前世では互いに家族を虐殺したに違いない、と気づく前。
師匠もまだ、おれとマイリーに、ある可能性を抱いていた。
師匠いわく、
──「真の境地は、バフとデバフが同時に使われ、まるで螺旋をかけあがるがごとく、どこまでも能力向上することだからね」
そこでおれとマイリーは、いくつか互いのスキルをかけあい、相互的に強くなれないか、話し合った。
そのとき考案したのが、合体技《デバフの雷雨》。
おれのデバフ付与攻撃を、広範囲に散開するというもの。
そのために、マイリーがおれにかけるバフは、たったひとつ。
スキル向上バフ。
これを重ねがけする。
すると、スキル向上バフを十層がけした瞬間、スキルそのものがレベルアップする。
つまり、おれのデバフ付与スキルが、さらなる高みへと昇るわけだ。
それこそが、デバフ付与攻撃を、まず天へと打ちだし、そこから周囲へと降り注がせる、この《デバフの雷雨》。
ただし弱点もある。
撃ちだせるデバフは、一種類のみ。ゆえに、最も効果的なものを選ばねばならない、という選別の悩みが。
ただし、その威力は通常時を超えている。
これほどの大技だが、これまでは現実的な技ではなかった。
なぜかって──マイリーと力をあわせる技だから。
しかも技の性質上、マイリーが脇役にならざるをえない。
そもそもバフは、敵にかけるものではないし、この《デバフの雷雨》の発想は、『一度に大量の雑魚敵を殲滅するにはどうすればいいか』だったからな。
……ふむ。量産型ガーディアンって、雑魚敵か?
マイリーが、おれに『スキルアップUP』バフを重ねがけし始める。
「第二の型を使うんでしょう、リク? あんたが二番目に会得したデバフ付与効果であり、あの師匠に『百年に一度の天才だね』と嘆息させた、あれを」
「しかし、暴発してしまったせいで、トームさんの牛がなぁ。いまだにトラウマ」
「バカ言ってないで、使いなさい。とっとと終えるのよ」
第二の型は、実のところマイリーのバフがないと使えない。
マイリーはそのことを知らないらしい。教えなくていいや。
「準備完了。撃ちなさい《デバフの雷雨》を」
「……じゃ、いくぞ」
《デバフの雷雨》にのせるデバフは──
デバフ殺法:第二の型【ヒットポイント0】。
デバフ効果は、文字どおり付与された者のヒットポイントが0になる。
そのためには、まずその対象のHP数値を、便宜上、はじき出す必要がある。
その上で──たとえどのようなHPの数値だろうとも──強制的に0とする。
瀕死、または死亡状態。
師匠の家の近くでトームさんの飼っていた牛に誤って命中してしまい、その夜は牛丼が夕食メニューとなった。
まぁ、だから真のトラウマは、家畜を屠ったことではなく、その牛の近くにトームさんが立っていたこと、か。
そのときのショックのせいか、自ら第二の型は封印してしまい、マイリーのバフという刺激がないと、表面に出てこなくなったわけだ。
「《デバフの雷雨》、発射!」
天に向かって、紫鋼色の巨大光弾が放たれる。
それは対流圏で散開。
24の光弾となって、それぞれの標的のいる地点へと降下していく。
「……外したら、どうしよう」
「あたしを信じなさい。命中力UPのバフもかけてあるわ」
「そうか……」
ここからでも何体かのガーディアンを視認することができた。
それらに《デバフの雷雨》の光弾が着弾。
第二の型【ヒットポイント0】デバフが付与される。
数秒間──そのガーディアンのHPが計算され、同時に、HP0となる。
とたんガーディアンががくんと倒れる。死亡──ガーディアンだから『破壊』か。
「あんたが平和主義じゃなきゃ、この『即死攻撃』を、もっと連発しているのでしょうね」
「意外と、使い道はないんだよ。強すぎるデバフというのは──」
そもそもバフがないと発動できんし。




