22,刺客。
山小屋が見えてきたところで、スゥが足を止める。
「まってリッちゃん、罠の可能性があるかも」
「レオナルドは信用できると思うが」
「うーん。確かにリッちゃんの、人を見る目は確かだと思うよ。他力本願が大好きなリッちゃんらしく」
「なぁ、まだマイリーのことで怒ってるのか、お前は」
「だけど、レオナルドという人が敵側に捕まっている場合もあるよね。そうすると、あの山小屋では、敵の待ち伏せが待っている──これって重複表現?」
スゥの言うことも一理ある。レオナルドが聖都軍に捕縛されている可能性も否定はできない。またはコア機関か、それとも。
「よし、スゥ。──気をつけて偵察してきてくれ」
「結局、わたしなの?」
「あいにく、おれは戦闘向きじゃないんでな」
「分かった、リッちゃん。一緒に行こー」
「……しょうがない、行こう」
山小屋は開けた場所にあるため、身を隠して近づくことができない。
無防備にならざるをえないところを走っていき、山小屋の外壁にぴたりと身体をつける。そして窓から、室内を見やった。
とくに異常は見られない。
山小屋内に入る。人けはない。
「待ち伏せはないが、レオナルドもいないのか」
スゥがくんくんしながら言った。
「リッちゃん。なんか、燃えてない? 燃えている臭いがする」
「あ、しまった」
窓から外に身を乗り出すと、山小屋の屋根が燃えていた。脱出しようとしたとたん、あまたの火矢が飛んでくる。
おれは慌てて室内に戻った。
「待ち伏せはあったんだ。しかし、奴らは外にいた」
「聖都軍かな?」
「どうだろうな。とにかく、蒸し焼きになる前に、逃げないとな」
だが思ったより火のまわりが早い。外に強硬突破しようとしても、周囲にいる射手から狙い撃ちされるだけ。
それと蒸し焼きになるより、まず一酸化炭素中毒で死にそう。
「困りましたな、スゥさん」
スゥは弱り切った様子で言った。
「リッちゃん。わたしは剣士だから、火事とかには弱いんだよね」
一考してから、近くまで迫っていた火炎に向かって、ビー玉を投げた。
ダメもとで第四の型【冷たいものは冷たい】を付与。
効力の凍結状態が決まり、一帯の火炎が凍り付いた。
「すごい、リッちゃん! デバフって、人間や魔物以外でも使えるんだね?」
「森羅万象に効力があるのか。これはおれも意外。デバフ付与は相手を選ばないらしい」
「これで火攻めでやられる心配はなくなったね。じゃ、出るよ、リッちゃん」
「外の姿なき射手どもはいなくなってないぞ」
「けど火の手というプレッシャーがなければ、わたし、飛んでくる矢を斬り落とす自信があるよ。だからリッちゃんは、わたしから離れないで、ついてきて」
スゥの、どこからくるか分からない自信に賭けるとしよう。
スゥの後ろに続いて、山小屋を出る。とたん三方から矢が射られる。ただ少なくとも、山小屋を背にしているので、背後からの矢攻撃はないわけだ。
そして三方からの矢の雨を、スゥの戦剣〈荒牙〉が舞い、斬り払っていく。
そのまま茂みまで突っ込んだ。
大樹を背にして、身を低くする。
「やるな、スゥ」
「ところで、この敵は聖都軍なの? それともコア機関というところなの?」
「それはいい質問だが、おっと」
黒装束の刺客が樹林の中から襲いかかってきた。敵は3人。それぞれ短剣を装備している。先ほどまでは矢を射っていた連中だな。
「たぁっ!!」
スゥが戦剣を数閃させ、二人の刺客を斬り殺す。
3人目には、おれがビー玉を当てていた。
第十三の型【痛いのは生きている証拠】。
状態異常系であり、その全身を激痛が襲うデバフ付与だ。
「ぐぁぁあ!!」
刺客が痛みにもだえ、転げまわる。
そこをおれは踏みつけて、動きをおさえる。
「こういう手荒な真似はしたくないが、手段を選んでもいられないからな。痛みを解除してほしかったら、答えろ。お前たちは、どこの組織に属している者だ?」
とたん刺客が泡を吹き出した。
「リッちゃん! 情報を吐かせる前に、痛みでショック死しちゃうよ!」
「バカな。このデバフに、そこまでの激痛はないはず──あ、こいつ、毒薬を歯にでも仕込んでいて、いま噛み砕きやがったんだ。おい、吐き出せ!」
しかし、気づいたときには毒死していた。
「捕虜になるくらいなら、死を選ぶ。リッちゃん。これって、コア機関のやりかた、かな?」
「うーん。なんとなくだが、聖都軍でもコア機関でもない気がするな」




