16,怒涛。
いまは、連行されていくスゥを、人込みの後ろから見届けるしかできない。
よし、パニくるな。
こういうときこそ、冷静さが問われる。
……
あー、スゥが捕まった! もう終わりだ!!
こういうときは、一杯やろう。現実逃避が大事だ。
というわけで近場の酒場を見つけ、駆け込みで葡萄酒を一杯。
そういや、おれはアルコールに弱いんだった。一杯飲んだだけで、頭がくらくらしてきた。
だがおかげで、冷静な思考が戻ってきた。
まず、スゥはなぜ捕まったのだろうか。
あいつが、すすんで法律を破るとは思えないのだが。
誰かにハメられたのか。聖都の独自ルールを知らずに違反してしまったのか。
とにかく、いったん捕まったとはいえ、すぐに釈放される可能性もある。
しかし最悪の場合、スゥを脱獄させてやらなきゃならない。
そのためには、スゥがどこに収容されるのか尾行せねばならない。
ふむ。こんなところで飲んだくれている場合ではないぞ。まだ一杯しか飲んでないけど。
しかし、おかしい。神聖聖女に会いにきたのに、脱獄作戦を考えている。
「まてよ。そうだ。スゥは、神聖聖女のことを聞き込みしにいったんだ。それで捕まったとなると、もしや」
酒場の入口が騒がしいと視線を向ける。
聖都軍の小隊が、邪魔な客を押しのけながら入ってきたところだ。
兵士の一人が、まさしくカウンター席にいるおれを指さす。
「隊長。あの男です。目撃情報によると、先ほどの女と一緒にこの聖都にやってきました」
「よし、捕縛しろ」
ほう。スゥと同じように、このおれを捕まえようということか。
いよいよ、この謎の逮捕の原因が、神聖聖女にかかわることと分かってきたな。
おれとスゥがこの聖都に来てやったのは、神聖聖女について聞いて回ることだけなのだから。
おれは椅子から立ち上がった。
「仕方ない。振りかかる火の粉は払わねばならない。おれの道を妨げるならば、相応の代償は支払ってもらうとしよう。わがデバフ殺法の怖さを知るがいい」
「……こいつ、床に向かって何か言っているぞ」
という兵士の声が上から聞こえてきた。
なるほど。なんか床が近いと思った。
椅子から立ち上がったとき、そのまま床にうつ伏せに倒れていたらしい。
あ、おれ、そうとう酔ってる?
葡萄酒、一杯しか飲んでないんだけど?
上から隊長の声がした。
「おい、この酔っぱらいを引きずっていけ。首狩りの奴らのところにな」
「え、コア機関の連中に引き渡すんですか? われわれが尋問するのではなく?」
と、不満そうな兵士の声。
おれもそれには同感だね。この流れからして、コア機関とやらは、通称が『首狩り』らしいし。
そんな奴らのところに連れていってほしくはないんだけど?
しかし隊長は、こちらも不満そうではあるが。
「仕方ないだろう。評議会の決定だ。この件は、コア機関に一任されている」
おれはなんとか上体を起こして、
「すると、あんたらは、コア機関とかいうところのパシリだな。聖都軍のくせに」
「黙ってろ!」
と、兵士の一人に蹴られた。
……痛い
余計なことを言うものではないな。とくに葡萄酒一杯で酔っぱらってデバフを使えないときは。
つーか、さすがに葡萄酒一杯で、ここまで酔うとは思えないんだが。
まさか、薬でも盛られていたのか?
誰の仕業だ……あーーー、意識が遠のく。
スゥ、すまん。おれはもう、、、、、寝るーーー……………
暗転。
覚醒。
目覚めると、激しく揺れる馬車の中にいた。
御者台では、聖都軍の兵士が手綱を握っている。
鋭い視線で後ろを振り向くので、おれもその視線を追いかける。
すると別の聖都軍の兵が追いかけてくるところだった。
どうやら、この馬車は追われているらしい。
御者台の兵士、何かの理由で、気絶しているおれを助け出してくれたのか。
一体、これはどういうことだろう……
あ、薬の効果でまた睡魔が。
「そこの兵士。おれは、もうひと眠りするから、無事に逃げきってくれよ、、、」
再度、暗転。




