14,出発の朝は眠い。
それから三日ほど、デゾン内で英雄扱いされた。
レストランに行けば店の奢り。買い物に行けば、やっぱり無料。
道を歩けば、通行人たちに声をかけられ、感謝を示される。
そして冒険者ギルドから、正式にクエスト成功報酬も出た。
想像よりも一桁多い額で。
人生、順風満帆!
まぁ、デゾンを出立するまでは、だが。
つまり、明日までだ。
明日、ギルドマスター直々に、極秘クエストを受注することになる。
まだ詳細は不明だが、かなり危険を伴うクエストになるようだ。
何より、生まれ育ったデゾンを旅立たねばならないらしいし。
では、そんな旅立ちの前夜、おれは何をするべきなのか?
自宅でじっくり考えた結論というものは。
「よし、娼館にいこう!」
まったく、これから死ににいくような旅に出るのだから、思い残すことはなにもない状態にしよう。
「いくぞ、夜の街へ」
目標意識をもって夜の繁華街を歩いていると、なぜか前方から見慣れた顔がやってきた。
「げっ、スゥ」
「あれ、リッちゃん。奇遇だね」
「お前、こんなところで、なにしているんだ?」
「冒険者として巡回任務中だけど?」
「こんなところで巡回するな! それに、明日は出発だというのに」
「だからこそ、冒険者として、デゾンでできることはしておかないとね。こういう冒険者の巡回が、都市の治安良好にどれだけ貢献していると思う?」
「う。真面目ちゃんめ」
「ところでリッちゃんは、こんな夜にどこに行くの?」
「…………いまから回れ右してうちに帰るところだ」
「ふーーーーん。じゃ、明日、遅刻しないでよ。朝8時、冒険者ギルドで」
「あいよ」
まぁ、いいか。事はせずとも気分は賢者モードだ。とっとと帰って寝よう。
というわけで、翌朝。
おれは冒険者ギルドの前で、スゥと顔をあわせていた。
スゥの背には、鞘におさまった戦剣〈荒牙〉。
おれの持ち物は、最低限の旅行必需品のつまったカバン。
それと、ちょっとしたバトル時の秘密道具──使えものなのかは微妙だが。
おれはあくびを噛み殺した。早起きは身体に毒だ。そんなに朝早くはないけど。
「じゃ、行くかスゥ」
「うん、リッちゃん」
おれたちはギルド本部内に入り、ギルマスの執務室へと進んだ。
ディーンはおれたちを迎え入れ、親しみをこめて言った。
「やぁ、戻ってきたね」
「ええ、スゥがやる気満々では、仕方ありません」
スゥが大きくうなずいて。
「出立する準備はできています、ギルドマスター」
ディーンは、それは頼もしい、と口にしてから、
「では極秘クエストの詳細を話すとしよう。君たちは、今年に入ってから、魔物たちが活発になっていることに疑問を抱いていることと思う。これはただの偶然ではない。明確な理由がある──と、推測される」
「推測される?」
このギルマスが不確定な情報で、クエストを発注するようには思えないが。
まあ、何か隠しているのならば別なわけだが。
スゥが難しい表情で言う。
「やはり、アーゾ大陸の危機というのは、魔物に関わることなのですね。ゴブリンを指揮していた者も、結局、見つかりませんでしたし。何か、起きようとしているのは、わたしも感じていました」
「あー、本当か?」
と、おれが疑わしいことを言うと、睨まれた。
ディーンが言う。
「君たちには、聖都グルガに向かってもらいたい。そこで、神聖聖女を探すんだ」
「神聖聖女、ですか……重複表現みたいな肩書きですね。それで、その人を見つけて、どうすればいいんです? それがこの大陸を救うことになるわけですか?」
「それは、君たちが判断するといい」
えー、ここにきて、丸投げ?
いや、これは何か隠されていること明々白々。
このディーンというギルマス、まさしく食えない男の典型。
しかし、師匠のこともあるし、文句を言える立場でもないのか。
「ま、最善は尽くします。な、スゥ?」
「世界を救ってきます、ギルドマスター!」
と、敬礼するスゥ。
安請け合いが大好きな幼馴染だな。




