114,聖騎剣術最終奥義《見損なったとはいわせない》。
ドラゴンを『装備品』と定義したのは、正解だったようだな。
それによってオルギの肉体は砕け散り、ドラゴンそのものが、抜け殻として飛んでいった。
「ほかの悪魔が来るまえに、長居は無用。ラベンダー、迎えにきてくれ!」
このとき、同時に複数のことが起きた。
観客席から降下してきたスゥがおれを突き飛ばし、オルギが振り下ろした燃え盛る大剣を、戦剣〈荒牙〉で受け止める。
この衝撃で、おれは飛ばされた。
オルギの状態は、敵ながらかなり悲惨。
ドラゴン形態が抜き出されるさい破壊された身体は、原型を留めているのが奇跡のような状態。
「しかし、さっき身体がバラバラになったと思ったが、まだ五体は残っていたのか」
燃え盛る大剣と思ったものは、オルギの右腕が形態変化したものだった。
便宜上、〈燃える腕剣〉とでも呼んでおくか。
この〈燃える腕剣〉による連続攻撃を、スゥはぎりぎりで回避していく。
先ほど一撃を受けとめたが、そのときの衝撃で、だいぶ身体に限界がきているようだ。
まったく五体がほぼ破壊された状態でも、ここまでの威力とは。
おれはスゥの援護にまわった。
こういうときは、まずシンプルなものから。
第一の型【亀の歩み】。減速デバフ。
五体がボロボロのくせに、オルギの動きはまだまだ速い。
そこで減速デバフをかける。
さらに〈燃える腕剣〉から巻きつくようにしてスゥに絡みつこうとする火炎は、第四の型【冷たいものは冷たい】による凍結デバフ。
凍結した矢先に、すぐに火炎状態が戻るが、とにかく連続して打ち込むことが大事。
「下等なる人間、ごときがぁぁぁ!!」
「はい、そういうの、よくないと思うよ。下等差別、反対!」
スゥの〈回転斬り〉。
そこに付与するのは、第七の型【ビリビリしているのだね】。
オルギの裂けた肉体箇所に、感電状態を付与する。
空気を走る電流が、スゥの〈荒牙〉をつかむ。
そして誘導するようにして、オルギの裂けた場所へ。
そこに叩き込まれた〈荒牙〉が、さらに悪魔の肉体を断ち切り、一刀両断にした。
「とうっ!」
「お見事といいたいが、まだだぞ、スゥ!」
上半身だけとなったオルギの身体が燃え上がり、火炎の巨大な砲丸となって、スゥに襲いかかる。
「わぁ、このしつこさ! 敵ながら天晴──リッちゃんも見習おう」
「おれは、いつもしつこい男だろうが!──それって、いいことか?」
しつこく凍結デバフを、《デバフ・アロー》で打ち込む。
ついに火炎が消えただけでなく、オルギの上半身を凍結状態に持ち込む。
「スゥ! この凍結状態は、ほんの一時だぞ!」
「三秒で充分だよ! 聖騎剣術最終奥義《見損なったとはいわせない》!!」
つまり、渾身の一撃。
だがただの一撃ではない。一瞬だが〈封魔〉スキルの鳴動を聞いた。
こんどこそ、オルギの身体が一刀両断される。
転がった頭部が、信じられないという口調で言った。
「バカ、な、人間、ごときが、に、ん、」
観客席からなだれ込んできたゴブリンの群れが、オルギの肉片を踏みつけて、こっちに突進してきた。
すっかり錯乱状態で。
スゥが片膝をつく。
「うう。はじめのオルギの一撃を受け止めたとき、骨を何本か折ったみたい」
空間転移してきたラベンダーが、軽くお辞儀した。
「まった?」
こいつ、いいところだけ登場しやがるよな。
しかし、錯乱したゴブリンの群れが迫っているので、文句は言えない。
「まった、まった」
ラベンダーの空間転移で、おれとスゥはその場を去った。
途中、「今回はすっかり後方支援でした」と自責しているエンマを連れて、闘技場の外まで脱出。




