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111/115

111,師匠ならば、こうするのだろう。

 

 ラベンダーの説明では、この『異なる位相の歓楽都市ヴィグ』を支配しているのは、オルギという悪魔。

 ドラゴン形態を持つ悪魔のようで、火炎と氷という相反する属性もち。


 この悪魔を殺し、管理者権限を奪うと、元の世界に戻るためのゲートを開くことができるという。


 ラベンダーの奴、どうにも詳しすぎるよな。

 すべてがデタラメということもありえるが。


「オルギという悪魔個体だけでも、まともに戦ったら苦戦必至だろうに。この魔物の量じゃなぁ……プランをたてよう。たまには、プランというものを」


 スゥが、謎の得心のいった顔で、


「殴り込むかたちでいいんだね、リッちゃん?」


「殴り込むかたちを、プランとは呼ばない」


「アタシの力も使ってよ」


 とラベンダー。


 この偽グウェンことラベンダーが、どこまで当てになるか。

 しかし、試してみても悪いことはないだろう。


 仮に失敗したとしても、まぁ死ぬだけだ。

 ……うーん。死ぬのは困るが。


「ラベンダー。おまえのスキルは、空間転移も可能としているようだが? たとえば、異なる位相の──」


「『異なる位相』への空間転移はできないなぁ、残念ながら。アタシも、自分の力ではなく、悪魔側のゲートから、こっちに来ているわけで」


 いくつか作戦を考えてみたが、どれも脳内でシミュレーションするたび、死ぬんだよなぁ。

 状況を打開できる展開がひとつも見つからない。


 もしかすると、おれは真面目に考えすぎているのかもしれない。

 師匠のように考えるのだ……

 師匠のように考えるのだ……

 師匠のように……


 そもそも師匠だったら、こんな位相の異なる世界に来て、悪魔と対峙するハメにはならなかっただろうに。


 ここは気合を入れて、師匠が『働いている』ところを思考実験するところから始めねばならないのか。

 なんという難易度の高さ。おれの思考力と想像力をフル回転させるときがきたか。

 ぐぬぬぬ。


 外野のスゥとエンマの会話が遠ざかっていく。


「リッちゃんが脳をフル稼働させている……こういうときのリッちゃんは、凄いよ」


「スゥさんの、リクさんへの無駄な信頼感のほうが凄いですね」


 師匠ならば、それでもやはり楽々な方法を取るだろう。

 わが師匠ならば。


「あぁ、なるほど。ラベンダー。観客席の魔物たちに気付かれず、何か所かに的確に移動したい」


 観客席の見取図を、床に描いてみせる。

 作戦を的確に遂行するために不可欠なポイント、一、二、三、四、五、六。

 魔物たちから完全に死角となる場所を選んでいく。


 ラベンダーはうなずいて、


「そういうの、得意だよ。キミを連れて、空間転移していこう。魔物たちには気取られず、的確に」


「……まった。空間転移で眩暈とか起こすと、アレだな。これは素早さがものをいう。ちょっと練習してみよう。それと空間転移は連続して行えるのか?」


「一度、空間転移して三秒。次の空間転移までに必要となる時間だね」


 三秒……覚えておこう。

 しかしラベンダーが、真の性能を口にしたと信じるのは危ういが。


 お試し空間転移を、二メートル先にして行った。

 いきなり場所が変わることで、視界が混乱する。それ以外は、とくに問題はない。


「転移時に目を瞑って視界を閉ざしておいたほうが、下手に混乱せずに済みそうだな。じゃ本番、いこう」


「オーケイ」


 観客席の魔物たちは、悪魔オルギの演説を聞きながら、さらなる熱狂中。

 オルギの演説内容は、要約すると『人類に目にものみせてやるときが来た』的なもの。


 こっちは魔物たちが、悪魔オルギに意識を奪われているのが、好都合。

 魔物たちに気付かれない位置へと転移していきながら、おれは《デバフ・アロー》を発射していく。


 できるだけ観客席の死角となる位置から、至近の魔物へと撃っていくことで、こっちの隠密行動を気取られないようにする。


 そうしてできるだけ多くの魔物たちに、次のデバフを付与していく。


 第六の型【何がどうしてこうなったのやら】。

 混乱状態の付与。


 第十一の型【弾けとぶときもある】。

 爆裂傷の付与。


 第二十の型【嫌なことは分け合おう】。

 デバフ内容は、『付与したデバフと同じものが、隣の敵にも付与される』。

 これで、第六、第十一のデバフを拡散させていく。


 ただしポイントは、第六、第九、第十一を、別々の個体に付与することだ。


 ある魔物たちは、第六のデバフによって、混乱状態となっていく。


 別の魔物たちは、第十一のデバフによって、その肉体が持続ダメージ爆裂により、破裂していく。


 そうそう、今回実戦では初お目みえの、第九のデバフも別の魔物たちへと拡散させていく。


 第九の型【誰だって昔は獣だった】。


 デバフ内容は、『理性数値が急激に下がる』。


 少しわかりにくいので、簡単にいえば、異常なまでに暴力的になる効果。


 すなわち、万単位の魔物たちに、猛スピードで、異なるデバフ効果が拡散していく。


 混乱。

 爆裂。

 そして暴力衝動。


 その結果、何が起こるか。


 阿鼻叫喚の地獄絵図。


 師匠なら、こうするだろう。


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