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105/115

105,強いものは強い。

 


 勢いというのは怖いもので。


 悪魔の伯爵クラスと戦うはめになった。


 まぁ最近忘れていたが、デバフとは強敵を弱体化させるもの。

 凍結デバフが万能すぎて、雑魚敵を凍結撃破させてばかりいたが。


 こういう、通常では人間が歯が立たない悪魔にこそ、デバフの強みが生きてくる。


 ……できればこんな敵とはぶつかりたくなかったが。


「いくよ、リッちゃん! 聖騎剣術〈明日は明日の風が吹く〉!」


 スゥの戦剣にも『デバフ発動準備』は付与している。

 だがその前に、もっとオロガリア伯爵を弱体化させておかないと。


 しかしオロガリア伯爵は、先ほど《デバフ・アロー》の矢を鷲掴みしていたが。

 おそらく、ある程度のデバフ耐性はあるのだろう。


 おれには師匠のような、《デバフ・アロー》命中精度はない。

 ならば、数を撃つまで。


 スゥの後ろから、《デバフ・アロー》を猛射。

 オロガリア伯爵が両拳で、デバフのエネルギー矢を弾き飛ばしていく。


 そこにスゥの聖騎剣術〈明日は明日の風が吹く〉の斬撃。

 まともに入るがダメージは与えられない。なんとう防御力。


 しかしデバフは付与される。

 付与を試みたのは、殺法のなかの第一~第十一の型(第二の型は不可)までのデバフ。


 ここまでの型が、デバフの基本中の基本。

 単純であるからこそ、付与力も強く、デバフ耐性にも対応しやすい。


 そして実際に付与成功したのが、まず第一の型【亀の歩み】

 オロガリア伯爵は減速状態に陥り、スゥはより斬撃を叩き込みやすくなる。


 さらに第三の型【だいたいのものは燃える】と第四の型【冷たいものは冷たい】。

 状態異常系のデバフはかけやすい。

 これで燃焼効果と凍結状態が伯爵にかかった──はずだが、見たところ変化はない。


 地味に持続ダメージを与えることにはなったが、凍結などで完全に動きを封じるには、付与層が足りないということか。


 そのほかのデバフは、かかっていない。睡眠系は無理そうだったが、第六の型【何がどうしてこうなったのやら】による混乱付与は期待していたので、少し残念。


 ただし、すでに第八の型【敵の攻撃は弱いにこしたことはない】による、攻撃力の著しい低下は機能している。


 あとは第十の型【弱らせてなんぼ】で防御力を低下させ、第十一の型【弾けとぶときもある】の爆裂傷で大ダメージを与えたいところ。


 そのためには、まず持続ダメージデバフで、オロガリア伯爵を弱らせねばならないが。


 スゥが斬撃の手を止めぬが、オロガリア伯爵は一歩後退。

 全身から火炎の渦を噴き出させる。


「わぁ、熱いの嫌いっ!」


 後退したスゥに、オロガリア伯爵の右拳がかすった。


 とたん、右肩をまるごと抉り取られる。

 なんとか左手で戦剣〈荒牙〉をつかみ、スゥはこっちまで転がるようにして撤退した。


 自身の抉り取られ、血が噴き出す右肩(のあった人体箇所)を見やり、スゥが青ざめる。


「……リッちゃん……これは、死んだ、かも」


「いえ、まだですよ!!」


 ゴミ箱から飛び出してきたエンマが、回復スキル〈戯〉を発動。

 破壊された人体が再生されていく。


「あ、良かった! ありがとう、エンマちゃん!! ……けどリッちゃん。まったく勝てる気がしないんだけど?」


「いや、伯爵へのデバフの効果累積は利いてきている。そろそろ戦況は覆るぞ」


「次に即死しなかったらだけどもね。だけども」


 戦剣〈荒牙〉を両手でつかみなおし、スゥは再度、伯爵に向かう。


「わたしの天然幸運バフがものをいうときだね!」


 スゥのメンタル力には感服するな。


「スゥだけに危険なところでは戦わせられない。ここは、おれも前線に出る──あぁ、死亡フラグ」


 大量の血痕を見やって、エンマが心配そうに言う。


「わたしの〈戯〉は、死なない限り、心臓だって再生できます。ですが──失われた血は、もとに戻せませんよ!」

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