四話 SNSで捜索
「それで、黛はどんな夢を見たんだ? 覚えている限り、話してみろ」
三船に促されたありすは、不思議な夢を出来る限り覚えているだけ話した。話しの途中、三船が僅かに眉を顰めた。
「魔力? 魔法が使えるのか?」
「うん、ポニーテールの女の人は『もう魔力が少ない』って言ってたよ」
ありすは必死に訴えるが、三船は首を横に傾げた。
「いくら古代でも魔法――もしかして、超能力とか言われる能力をもつ人なのかな?」
そう言いながら三船は立ち上がってノートパソコンを持ってくると、電源を入れる。そうして直ぐにキーボードを打ち、ありすの言葉を検索し始める。
「アリスタイオスは、確かにギリシャ圏の名前だな。意味は、『最善の者』、名前の通り英雄として異端者と戦ったんだろう。これだけだと、海外映画の影響で見たとしか考えられないが――歴史が苦手なお前が、そんな細かい設定の夢を見るとは思えないしなぁ……」
パソコンで調べていた三船の言葉は至極真っ当だったが、ありすは世界史の担当である三船に申し訳ない気持ちになる。
「他に、単語でもいいが何か覚えていないか?」
その言葉に、珈琲カップを置いてありすは瞳を閉じて考える。夢に見るのは、三船に語った所ばかりだ
――いや? 確か、違う場面も夢に見ていたような気もする。一瞬他の場面が脳裏に浮かぶ。宮殿の中のようだ。沢山の人が並んでいた。
「……リュコスの戦士……ヴロヒの乙女……アリスタイオスは――レオーンの戦士……称号を与える」
ありすの口から、自然とその名前が出た。思い出したのは短い映像だ。冠を頭に乗せた威厳のある王様から、そう呼ばれて鮮やかな金髪のアリスタイオスは夢では折れていた大剣を貰っている。隣に並ぶのは、赤い髪のイケメン騎士と白い民族衣装を身にまとった銀色の髪の美少女――もう一人は、アリスタイオスの半歩後ろにいてよく見えない。
「狼の戦士と、雨の乙女。そして獅子の戦士か。お前の夢だと隠して発表したら、本格的な古代ギリシア映画が撮れるぞ」
茶化したような言葉だったが、三船の顔は真面目だった。三船は彼女が一年生の時も担任をして、二年の付き合いになる。だからありすがそんな嘘をついて自分を揶揄う生徒とは、三船には思えなかった。たぶん、間違いなく彼女の前世だろう。だが、気掛かりな事があった。
「その夢の中で、お前は誰なんだ?」
三船が聞く限り、ありすはその夢を俯瞰で見ている。つまり、誰かの体で見ている夢ではないのだ。アリスタイオスやその他の人『以外』である可能性が高い。
「……分からない。ボク、誰なんだろう……?」
そう言われて、ありすはよく考えてみたが確かに映画を観ているようで『誰かの目』で見ているような感じではなかった。しかし、アリスタイオスの苦悩だけは自分の事のように感じる。絶望と諦め――仲間を護れなかった悔しさ。ありすは泣きたくなるくらい、その気持ちが分かる。
「ま、俺の友人の時と同じなら『その時』がくれば何か思い出すかもしれないな。焦らなくても、きっと思い出すだろう」
パソコンの画面から顔を上げた三船はそう言って、少し残念そうな顔のありすの頭をポンポンと撫でて笑った。ありすはその言葉に小さく頷くと、飲み干した珈琲カップを机に置いた。
「そろそろ休憩時間が終わるな。さ、食べ終えて教室に返りなさい」
「はーい」
ありすはまだ少し残っていたお弁当箱の中身を食べ終えると、蓋を閉めてランチバックの中にお弁当箱を入れた。
「先生、話を聞いてくれて有難う。少し、気が楽になったよ」
「そうか。また、何かあったら話してくれ。俺も少し興味が出たよ」
ありすは三船に「珈琲ご馳走様でした」と頭を下げてから、美術室を出た。そうして教室に戻りながら、ふとカーディガンのポケットに入っているスマホの存在を思い出す。それを取り出して、普段あまり使わないSNSを開く。アカウントを持っていても、日常の事――主に美味しかった料理の写真を上げている――くらいだが、今日はいつもとは違う投稿をしてみた。
『リュコスの戦士、ヴロヒの乙女、レオーンの戦士。知ってる人いますか?』
それだけ書き込んでから――ハッシュタグにアリスタイオスの文字も入れてみた。先生のお母さんくらいの世代なら文通。ボクなら、SNSだよね。そう気軽に投稿してみた。
その時、予鈴が鳴った。「わ!」とありすは声を上げた。そうして、朝のように慌てて足早に教室に向かった。「廊下は静かにね」とありすに声をかける現国の先生に「ごめんなさい」と返事しつつも、ありすの足は急いでいた。
――知っている人、いるかな? いるといいな……特に、あのイケメンと美人の『英雄』に出会いたい。でもでも勿論一番会いたいのは、アリスタイオスだよね。ボクでも、彼を助ける事が出来るかな? 彼を助ける為に、夢を見ているのかな?
教室に入ると、再び自分の席に座ってランチバックを机の横のフックに引っ掛けた。そうして午後一番の現国の教科書を取り出した。本鈴が鳴る少し前に先ほどすれ違った現国の先生が教室に入って来た。
そうして授業が始まると、ありすはSNSに自分が人探しの投稿した事を忘れて、満腹感で訪れる睡魔と格闘を始めるのだった。




