二話 消えた大陸たち
「先生の親より少し上の世代で、前世が流行ってたんだ。自分は何処かの姫君だったとか、戦士だとか修道院の尼僧だったとか――宇宙から来たってのもあるぞ?」
「え? 前世が宇宙人とかヤバイ、人間じゃないんだ。先生の親より上って、確かまだネットとか普及してなかったんじゃないの? どうやって流行ってたの?」
今日の唐揚げは塩麴で味付けされているので、むね肉でも柔らかでジューシーだ。唐揚げを頬張ったありすも三船も、思わず美味しくてほっこりした顔になってしまう。
「そうそう、携帯電話とか全然普及してない時代だよ。パソコンも今よりずっと大きくてマニアか会社くらいしか持ってなかったくらい高いし、普通の一般家庭にはそうなかったよ。当時は各地の人と交流するなら雑誌のコーナーにある文通、かな?」
「文通!?」
三船の話によると、怪奇現象や未確認飛行物体、オーパーツなどの特集をした本がその当時流行っていたそうだ。そこで文通欄という、今では考えられない項目があったらしい。自分の住んでいる住所と本名、実年齢などが書かれたコーナーで、超常現象仲間を探すのと同じくらい、自分の前世と交流があった人を探している若者が多数いたそうだ。一時期前世は雑誌でも大きく特集が組まれる事が多く、若い子を中心に前世ブームという時代があったのだ。
「住所なんて、そんな個人情報を雑誌に載せちゃだめだよね。ストーカーとか犯罪はなかったの? それに、どうして前世の仲間を探すの? というか、探せるの?」
栗ご飯は去年と同じでほっくりした栗が甘くて美味しいが、三船のカレーの匂いで栗カレーご飯を食べている気分になった。だが、文句は言わず話に集中する。
「ま、当時は今よりそう言う事におおらかだったんだよ。住所や電話番号が乗った雑誌が、各家庭に普通にあったくらいだからな。それで、何で探すかって事だけどな」
三船は珈琲を飲んで一息つくと、机の上に置いてあった世界史の教科書を出した。
「黛。日本の裏は、何処だと思う?」
突然会話が変わったので、ありすは「え?」と怪訝そうに三船の顔を見た。
「えーっと……ブラジル……だっけ?」
テレビで見た芸人さんがそんなギャグをやっていたのが、ありすの脳裏に浮かぶ。しかし三船は、その答えを予想していたのか、にっこりと笑い「不正解」と指で×マークを作ってみせた。
「正解は大西洋――つまり、海って事。沖縄辺りまで行くと、やっとブラジルになるかな」
「それがどう関係してるの?」
「まあ、まあ」
不正解と言われて拗ねたありすを宥めるようにそう言うと、彼は世界史の教科書にある世界地図を広げた。
「ここが、大西洋だ。太平洋に比べると小さいかもしれないが、大陸や島がほとんどなく広いだろ?」
言われてみれば、確かにそうだ。太平洋と大西洋には、ぽっかりと空いているような気がする。
「黛はほとんど寝ていて授業を聞いてないだろうが、昔の地球では色んな事があったみたいだ。だけど誰も地球に何があったか、そんなことが本当にあったか分からない。発掘で出た遺跡の年代や発見された文献を照らし合わせて、可能性が高い情報をまとめたもので俺達教師はお前たちに地球の歴史を『授業』として教えている。昔大陸はもっと大きかった、それが割れて離れた。もっと島があった筈だが、沈んでしまった。そんな可能性を抱き多くの研究者たちは世界を巡り、地球は太古どんな形だったのかを調べている。ま、学者のロマンだな」
「そう言えば、ソドムとゴモラって島があったけど神様の怒りに触れて沈んだっけ?」
「その偏った博識、どうにかならないか?」
毎回世界史のテストは赤点すれすれのありすに頭を抱えている三船は、彼女の言葉に驚いた顔をした。たまたま読んだ漫画で、そんな島の話が出てきたのをありすは覚えていた。
「それも話にはあるが、あくまでも言い伝えられているだけだ。その島があった証拠は、まだ見つかっていない」
ありすは、太古の地球の話と夢がどう繋がるのかまだ分からない。しかし、三船はありすが理解できるように話してくれているはずだ。辛抱強く聞く事にした。
「イタリアにあったポンペイは知っているか? 火山の噴火で、一夜で沈んだと言われている島だ」
「うーん、何となく知っているような気が……」
首を横に傾げるありすに、三船は両手で顔を覆い肩を落とした。
「一年生の時に、教えただろう……なんで、寝るんだよ、お前は……」
「知ってる知ってる! 遺跡が出てきたんだよね?」
あまりに三船が悲しがるので、なけなしの記憶を探り発掘でパンなどの食べ物から動物、倒れている人が石膏で鮮やかに姿を見せてその存在が世界に認められた島をなんとか思い出した。
「そう。存在が確かになった数少ない沈んだ島だ。実はな、そんな島や大陸が昔はもっとあったと言われている。そこで、さっきの前世と繋がるんだ。実は消えた幻の四大大陸って話があるんだ」
明るい表情になった三船は、言葉を続けた。
「大西洋にあったと言われる『アトランティス大陸』、太平洋の中央辺りにあったと言われる『パシフィス大陸』、同じく太平洋にあったと言われる『ムー大陸』、インド洋にあったと言われる『レムリア大陸』」
三船が地図を指差しながら、ありすが聞いた事のない大陸の名前を口にした。そんな面白い話が授業であったなら、寝てない筈だ。
「そんなの、授業で言ってないじゃん!」
「バカ。これは歴史界の都市伝説みたいなもんだ。書物にしか書かれていない、あったという確実な証拠がない話だ。確かでない事を、授業でお前たちに教えられるか」
三船はありすの弁当箱から唐揚げを一つ摘まみ、怒られる前に素早く口に放り込んだ。
「その『前世の仲間』を探すのに、やたらと『アトランティス大陸』と『ムー大陸』が多かったんだよ。『最後の聖戦で一緒だった仲間を探しています』とか、『〇〇という名前の姫をを憶えている方、私がそうです。今こそ、戦いに備えましょう』とか、やたらと最終戦争を一緒に戦ったという内容が多い。この幻の四大大陸は、大陸があったと言われる時代に驚異的な文明を築いていたんだ。その為、核戦争があったとか宇宙人に攻められたって話もある。そんな物騒な事で、大陸が沈んだと言われている」
――ボクの見た夢も……魔王みたいなのに沢山の人が負けて死んで……三人が誘拐されていた。まさか、ボクの前世はその『アトランティス大陸』や『ムー大陸』に生きていたんだろうか?
「先生は、ボクの夢が前世の記憶で失われた大陸で生きてたかもって言いたいの?」
「ああ、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
曖昧な三船の言葉に、ありすは首を傾げた。




