11 7歳になったナターシャちゃんの日常 前編
時は流れ1年後。7歳になりました。
その1年ほど魔法創造のデメリット削除やチート魔法作製に費やしましたが水の泡に。
でも頑張って厨二病克服したいと思います。
気が付かない内に1年も経ちました。どうも、赤城恵です。
理想像の追求は止めました。スキルのデメリットが原因だと発覚したからです。あのパツキン女神絶対許さない。いつか仲間に入れてやる。
1年前はデメリットの事であたふたしていましたが、ふと“そうだ、魔法創造でデメリット打ち消す魔法創ればいいんじゃね?”と思い立ち、その詠唱魔法の作成に取り掛かりました。
それから長い月日が経ち遂に、魔法創造(厨二)のデメリット用新魔法を開発しました。
“我が記憶に残りし前世の残滓よ、過去の栄光よ。その効力を無くし我に永劫の平穏を与えよ”です。
しかし、何度詠唱しても効果が得られませんでした。
怒ってLINEで天使さんに聞いたら、
天使
[多分魔法創造のスキルLvが足りないからじゃないかな? なっちゃんがやってるのは過去に干渉する系の時空干渉魔法だしLv7くらいにならないと世界に刻むのは無理かも☆]
と言われました。くそぅ。
あ、俺の愛称がいつの間にかめぐちゃんからなっちゃんに変更されてました。
どうやら異世界の俺の名前に合わせてくれたようです。天使さんはとってもフレンドリーなので定期的に連絡をとって他愛ない話をしています。
好きな物はいちご大福なようです。可愛いですね。
他にも考えていた魔法創造(厨二)をユニーク化させる魔法や、LvUP魔法、苦労せず楽して経験値ゲット魔法も聞きましたが、
天使
[そういう事象改変系は神の所業だよ? Lv10どころか本物の魔法創造にならないと無理だねっ♪]
と突き放されました。楽は出来ないようです。くそぅ。
というか最初から天使さんに質問しておけば無駄に1年過ごす必要もなかったと思います。反省していきたいですね。
今は魔法創造(厨二)スキルのLvUPの為に色々な魔法を考えているのですが、先史遺産を利用しても良い詠唱が思いつきません。ちなみにスマホの事です。
何故長い詠唱を考えているかというと、1文程度の簡易な詠唱魔法や単語魔法は既に開発されているからです。
天使さん曰く、
天使
[Lv1くらいなら10個くらいでLvUPすると思うよー]
との事なので、単語魔法を20個ほど作製しましたがLvが上がらなかったので開発済みなのは間違いないです。
あ、スキルLvの確認は思考錯誤した結果“ステータスオープン”と唱えるとステータス画面が出てきました。先に教えておいて欲しいですね。ちなみにかかった時間は10秒ほどでした。
やはり地頭が良くないと長い詠唱を考えるのは難しいのでしょうか。まぁまだ7歳というのも影響していそうですが。
Ya〇oo知恵袋なども利用しましたが精神科に行く事を進められました。世知辛い世の中です。
しかし諦めません。中二病から解放されてスッキリした異世界人生を送りたいからです。
ちなみに他人に認められれば魔法を認可してもらえるという方法ですが非常にシビアで、本当に心の底から素晴らしいと思ってもらえないと魔法として認められないようです。そして世界に刻まれる訳ではないようです。一番に試して諦めました。
ドヤ顔で父や母に、『新しい魔法考えたんだ!』と言って『“ふわふわうさぎさん、ぴょんぴょん跳ねて、私の手の中からとびだせっ!”』と言った時は発動しましたが(うさぎは晩御飯になりました)、友達に同じ詠唱を言っても何も起こらなかった事は多分二度と忘れられません。
発動せず固まっていた俺を見つけた母は何も言わず優しい顔で頭を撫でてくれて、励ましてくれました。
その時ほど母の優しさに感謝した日は無いと思います。きっとこれからも母は優しいのでしょう。そう思います。
では本編の方に移ります。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……」
机に向かって書き物をしていたナターシャ。
疲れたのか顔を上げ、背もたれにもたれかかり、鉛筆を投げ捨てる。
顔にかけている銀縁眼鏡の中に存在する澄んだ蒼い瞳は虚空を見つめ、銀色の長い髪は開いた窓から入る風でサラサラと靡いて美しい輝きを放っている。
良い案全然思いつかねぇ……。
そもそも中世なのになんで鉛筆とか眼鏡あんだよとか思ったけどそもそもここは異世界なので色々諦める事にした。だってファリア監督の例があるしね。
きっと今の文明が生まれる前には俺の元の世界のような文明が存在していたんだよ。
だから時代は中世なのにこうやって特異点のように文明の利器が開発されているんだろうと思ってます。あれ、この思考って中二病なのでは……
気が付かない内に昔の俺に汚染される思考を振り払い、再び机にかじりつく。
くっそ、このままぼーっとしてると時期が来てしまう。タイムリミットは後6年ほど。まだ時間はあるけど、早いうちにスキルLv上げて中二病という不治の病をあの詠唱で克服しなくては……
再々発症した場合の治療にも使えるしね。……いや再々発症したら間違いなく使わないわ。禁断の秘術として永劫封印する可能性すらあるわ。それで世界を魔法で支配していき魔王ルートへ……
背筋に悪寒が走ったナターシャは必死に脳みそを回し鉛筆を走らせる。
その様子を、扉の狭い隙間から見ているのが姉であるユーリカ。
現在14歳で、父と同じ国家騎士になる為に騎士養成学校に通っている。現在は夏休みで一時帰宅している所だ。普段は寮生活。
まぁ騎士養成学校を運営するエンシア王国は、この家から徒歩でおよそ1日の所にあるので意外と近かったりする。
(……ナターシャ、毎日勉強して偉いわね。私と違って魔法適正を持っていたし、きっと将来は宮廷魔術師を目指して頑張っているんだわ。私もお父さんと同じように国家騎士を目指して頑張らなくちゃ)
ユーリカはたまにこうしてナターシャの姿を見る事で色々と勇気を貰っているのだが、それをナターシャが知る事はないはず。
そしてまぁナターシャというか赤城恵には将来どうなろうとかそういう思考は無い、というか封印したのだが周りから見ればそう見えてしまうのも仕方ない。
何故ならナターシャは6歳の洗礼の日から毎日必死になって魔法の開発に勤しんでいるからだ。その様子は両親ですら心配する程の物で、酷い時には6歳児なのに目の下に隈が出来ていたという。
一体どれだけ追い詰められていたんだ赤城恵。
(……にしても、ナターシャがたまに触ってるあの光る板って何かしら。……ま、まさか魔道具!? ナターシャったらあの年で既に魔道具を扱えるって言うの……!?)
妹の才能の恐ろしさに戦慄する姉の図。
まぁ本当は万人が使える文明の利器なのだが、この中世風味な異世界においてあれをスマホだと理解出来る人間は居ない。居るとしたらナターシャと同じ転生者か転移者だろう。
簡単に言うとこの世界でのナターシャのスマホは、それに似ている人工物である魔道具として認識される事となる。
それが原因で面倒を引き込む事になるとナターシャはよく読んでいたラノベで知っている為、自室以外では使用しないようにしているのだが今さっき姉にバレてしまった。
(でも、魔道具なんて一体何処から入手したのかしら。……まさか、危ない事件や悪い仕事に首を突っ込んでるんじゃ……! そ、そんなのいけないわ! お姉ちゃんである私が止めなきゃ……!)
当然ユーリカは魔道具の出所を知る為に部屋に突入する事を決める。
「そこまでよナターシャ!」(バァン!)
ドアを身体能力Lv2からLv3に進化した脚力で蹴り破り、ナターシャを現行犯逮捕する。
ナターシャは突然の騒音にビクッとして振り向き、何故か怒った表情の姉を見て叫ぶ。
「お、お姉ちゃん!?」
スマホを持ったまま。
「お姉ちゃんとして妹の悪行を見過ごす事は出来ません! その魔道具は一体何処から手に入れたの!?」
「えぇっ!? こ、これは……」
姉の問い詰めにあたふたするナターシャ。やっぱり。ユーリカはその顔を見て淡い確信のような物を持つ。
「……やっぱりね。どうして組織に関与したりしたのナターシャ! そんなの駄目よ! 許されないわ!」
「組織ィ!? な、なんでその事を知って……って違う! 違うのお姉ちゃん! これは魔道具じゃなくてスマホって言って――」
手に持つ魔道具が何なのか説明し始めるナターシャだが姉であるユーリカの耳には届かない。何故なら組織という単語に過剰に反応したという事実がユーリカの疑念を吹き飛ばしたからだ。
……やっぱり組織が関わっていたのね! 吹っ掛けてみて正解だったわ!
会話術Lv3は伊達ではないという事だ。
「妹の悪行を見過ごすほど甘い姉ではありません! この事はお父様とお母様に報告させてもらうわ!」
「ちょ、ちょっと待って! これ簡単に言うとスマホって言う電気で動く機械っていう物で、魔法で動いてる物じゃ――」
「言い訳無用! ついてきなさい!」
「あっちょっとまってああああ痛い痛い痛い超痛い!」
ギュウゥとナターシャの耳を引っ張り部屋の外へと連れ出すユーリカ。
身体能力Lv3とスキル無しでは力の差は歴然。ナターシャは無慈悲にも両親の所へ連れていかれるのであった。
ユーリカちゃんは割と早とちりしやすい子です。
正義感が強くて悪い事は許せません。
なんでも解決してやるぞ。という気概に溢れています。騎士の鑑ですね。
設定は若干先のネタバレが多いので割愛。




