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第五十一話『トラウマ』―2

 

「女やからって容赦せぇへんぞ! おれはフェミニストとちゃうんや! 今の世の中、男女平等じゃダボカス! この! ブス! 女なんか死にさらせぇぇえええ!!」


 “男女平等”とはなんぞや。アキトとゴロウがそう思う間もなく、祝は合成生物(キメラ)を蹴散らしていく。半ベソ状態で。

 見えもしない相手に罵詈雑言を浴びせ、殴りかかる。


 ストリートチルドレン時代に色々あったらしく、祝は女を生理的に受け付けない。

 女に触れられると、体が拒絶反応を起こす。

 千晶とはよく言い合いをしているが、体が接触したことは一度もない。

 小さな子ども相手ならば触ることが出来るが、あくまで“触れる”レベルであり、仲良く触れ合うことはない。


 義手だから思いきり殴ることが出来ているが、素手だったなら逃げ出していたかもしれない。

 そして、祝に思いきり殴られた女合成生物(キメラ)たちはというと……、原形が分からないくらいぐちゃぐちゃになっている。

 一部は肉用のハンマーで殴られたような肉片と化していた。


 我に返った祝は、何の色かもわからない体液にまみれ、再度叫んだ。


「何やコレ! きっしょぉ!!」


 と。

 しかし、一頻(ひとしき)り暴れて体が温まった祝の顔色はここ数日間で最も良い状態にあった。


 何との合成か――どころか、女かどうかも分からなくなったそれらを踏まないように、アキトへ近付く。


「そんで、アキトクンは生き物を発情させて人を襲わせる以外に何が出来んの?」


 アキトはたじろぎ、「あ、う……」と言葉を詰まらせながらも祝を睨んだ。


「お、お前ん事、呪っちゅうけ――」


 こんっ。

 軽い音がした。

 祝がアキトの頭を指で(つつ)いた音だ。アキトは眼球をぐりんと回し、その場に倒れた。

 死んではいない。


「呪い関係は専門家が()るから、もうええわ」


 呆れ顔で見下ろすも、当然、アキトからの返事はない。


「そんで、お前はおれの腕をサビさせるん? これ、おニューなんやけど?」


 ゴロウに一歩近づくと、ゴロウが一歩下がった。

 祝の腕とて、金属であることに変わりはない。

 イオン化させて本来の性質を変えてやれば、使い物にならない筈だ。

 ゴロウも頭では分かっているが、体が動かない。


 キュンッ。

 腕に内蔵されているモーターが回る音と、それに伴い内部から駆動音がした。

 振り上げられた拳を見たゴロウは腰を抜かし、その場にへたりこむ。

 教室のドアに背を預けて、それでも震える右手を祝へ向けた。


「おっ! 案外根性あるやん」


 ゴロウ渾身(こんしん)の“メガトン・ザラッ()”を、ひょいと()ける。

 にっこり笑うと、祝はトンとゴロウの頭を()いた。


(首の後ろ……脳幹狙って手刀でチョップするアレ。かっこええんやけど、下手したら殺してまうからなぁ……)


 この二人は一応、敵幹部の一員だ。

 利用価値があるかもしれないので、殺すにはまだ早いと判断しての行動。

 ゴロウが気を失った事を確認し、祝はストレッチがてら腕を回した。

 肩と肩甲骨をほぐしてやる。


「しっかし、この腕が重いんは素材の所為やのうて、内部の所為やろな。まぁ、お陰でこいつら全員倒せたけど……」


 ぶつぶつ独り言を喋っていると、新しい合成生物(キメラ)が階段からぞろぞろと降りて来た。


「おっ見えるやないか! しかも、今度は男や!」


 やったるでー! と、祝は(こぶし)を振りかぶり、合成生物(キメラ)たちに向かって突進した。




 廊下に飛散している肉片の数々。形容し難い色の液体は廊下や天井に散り、趣味の悪いアートと化している。


 拓人は一度足を止めて、廊下の奥に目をやり――楽しそうに暴れている祝の後姿が見えたので、無言でその場を去った。




 

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