第三十一話『青の四天王』―3
二人は地下牢に収容されている合成生物たちを眺めながら、口を揃える。「こんな風にはなりたくないな」と。
「やっぱ合成されんなら、カッケーのが良いちね」
「オレもそー思うわぁー。でも、尚巳……だっけ? あいつは余所者だからさぁー。だから、合成材料にされたんだろ?」
確かに。とアキトは頷く。
「ユウヤ君は余所者嫌いっちゅーもんね」
「んじゃさぁー、オレらは材料にはされねーのかなぁ?」
アキトは、そんなん分からんちよ、と肩を竦めた。
牢に収まっている獣たちは、動物と人間、或いは動物と動物の合成生物たちばかりだ。その事から、やはり動物より昆虫と合成させる方が成功率が高い事が伺える。
キモカワ系から、ただのグロテスクな生物まで、様々な形態の生き物が居る。鳴き声やら摩擦音やらが混じり合い、暗い地下という事も相まって、この場は不気味な空間と化している。
「こいつらはさぁー。何で生かされてんだ?」
ゴロウが疑問を口にするがアキトは、さぁ、と肩を上げるのみ。
「ウサギになった頭も殺されたのにさぁ。何であの黒猫は生かされてんだろーなぁ?」
「あの黒猫、ミコトがえらい気に入っとったちけんね。あいつ殺すんは無理なんと違う?」
今度はゴロウが、確かに、と唸った。
「イツキ様も、あげな奴連れて来たりして、急にどがんしたんやろね」
「んな事より、腹へった!」
アキトの疑問をぶった切る胴間声。
思わず吹き出すとアキトは、ラーメンでも食い行く? と、提案を投げた。
ゴロウは顔を明るくし、提案に乗っかる。
「いーなぁ! バイト代入ったし、行こ行こ!」
「ボスには内緒っちゃね」
もちろんだー! と右腕を振り上げ、ゴロウは階段を駆け上がって行った。それに、アキトも続いて出ていった。
『気になってたんですけど、アキトさんのあの喋り方って、どこの方言なんですか?』
尚巳のどうでもいい質問には答えず、イツキは「それより」と話題を変える。
「君はこれからどうするんだい?」
『へ?』
これからも《天神と虎》内に居るつもりでいた尚巳は、イツキの質問の真意が理解できなかった。思わず「へにゃ!?」と鳴いてしまった。
『どう……って、おれ、まだユウヤ君を殺す手助けを何にもしてないですよ?』
イツキは笑う。こんな姿にされたのに、まだ協力してくれるの? と。
『寧ろ、今はこの姿の方が好都合ですよ。後の事は後で考えます。喋れないのも、もしかしたら都合がいいかもしれません。もう少し、おれは猫になりきってイツキ様の傍に居ますよ』
黒猫の表情から感情は読めないが、きっと楽天的に笑っているに違いない。イツキはそんな事を思いながら、丸まった黒猫の背を撫でた。
◆◇◆◇
音楽室。ノートに何か記していたユウヤが顔を上げる。
「そーいやさ。ねーちゃんはどこだ?」
「プレイルームだよー」
自分の長い爪を見ながら、ミコトが答えた。ラメとパールでキラキラと輝くそれは、チープではあるが、宝石のようである。
付けまつ毛をバサリと揺らし、ミコトは瞬きをした。あくびを噛み殺しながら。
「ボスは小さい体なのに、ちゃんとお母さんしててスゴイよねー」
「ミコトねーちゃんは結婚しねーのか?」
恋愛知らずの少年であるが故の無遠慮な質問に、ミコトは顔を歪める。
「相手が居ましぇーん!」
「それもそうだな!」
という無礼さ。にも関わらず、ミコトは「でっしょー?」と笑う。内心では、このガキゃあ……、とでも思っているのかもしれないが、一々怒っていてはキリがない。
「んでさ、ミコトねーちゃん。シンジはどこに居るか知ってるか?」
「シンジ……?」
四天王で青色のオーバーオールを着ている男だ。夜はホストとして働いている。
「自分の部屋で寝てるんじゃない? どーしたのぉ? ユウヤ君がシンジの事気にするなんて、雪でも降っちゃう?」
「ザコがやられたら幹部の噛ませ犬が登場するのは、セオリーっしょ!」
と、自称“正義のヒーロー”は、悪役のセオリーを高らかに叫んで右腕を突き上げた。




