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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
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第三十一話『青の四天王』―3


 二人は地下牢に収容されている合成生物(キメラ)たちを眺めながら、口を揃える。「こんな風にはなりたくないな」と。


「やっぱ合成されんなら、カッケーのが良いちね」

「オレもそー思うわぁー。でも、尚巳……だっけ? あいつは余所者(よそもの)だからさぁー。だから、合成材料(あんなん)にされたんだろ?」


 確かに。とアキトは頷く。


「ユウヤ君は余所者嫌いっちゅーもんね」

「んじゃさぁー、オレらは材料にはされねーのかなぁ?」


 アキトは、そんなん分からんちよ、と肩を竦めた。

 牢に収まっている(けだもの)たちは、動物と人間、或いは動物と動物の合成生物(キメラ)たちばかりだ。その事から、やはり動物より昆虫と合成させる方が成功率が高い事が伺える。


 キモカワ系から、ただのグロテスクな生物まで、様々な形態の生き物が居る。鳴き声やら摩擦音やらが混じり合い、暗い地下という事も相まって、この場は不気味な空間と化している。


「こいつらはさぁー。何で生かされてんだ?」


 ゴロウが疑問を口にするがアキトは、さぁ、と肩を上げるのみ。


「ウサギになった(かしら)も殺されたのにさぁ。何であの黒猫は生かされてんだろーなぁ?」

「あの黒猫、ミコトがえらい気に入っとったちけんね。あいつ殺すんは無理なんと違う?」


 今度はゴロウが、確かに、と唸った。


「イツキ様も、あげな奴連れて来たりして、急にどがんしたんやろね」

「んな事より、腹へった!」


 アキトの疑問をぶった切る胴間声(どうまごえ)

 思わず吹き出すとアキトは、ラーメンでも食い行く? と、提案を投げた。


 ゴロウは顔を明るくし、提案に乗っかる。


「いーなぁ! バイト代入ったし、行こ行こ!」

「ボスには内緒っちゃね」


 もちろんだー! と右腕を振り上げ、ゴロウは階段を駆け上がって行った。それに、アキトも続いて出ていった。




『気になってたんですけど、アキトさんのあの喋り方って、どこの方言なんですか?』


 尚巳のどうでもいい質問には答えず、イツキは「それより」と話題を変える。


「君はこれからどうするんだい?」

『へ?』


 これからも《天神と虎》内に居るつもりでいた尚巳は、イツキの質問の真意が理解できなかった。思わず「へにゃ!?」と鳴いてしまった。


『どう……って、おれ、まだユウヤ君を殺す手助けを何にもしてないですよ?』


 イツキは笑う。こんな姿にされたのに、まだ協力してくれるの? と。


(むし)ろ、今はこの姿の方が好都合ですよ。後の事は後で考えます。喋れないのも、もしかしたら都合がいいかもしれません。もう少し、おれは猫になりきってイツキ様の傍に居ますよ』


 黒猫の表情から感情は読めないが、きっと楽天的に笑っているに違いない。イツキはそんな事を思いながら、丸まった黒猫の背を撫でた。




◆◇◆◇




 音楽室。ノートに何か記していたユウヤが顔を上げる。


「そーいやさ。ねーちゃんはどこだ?」

「プレイルームだよー」


 自分の長い爪を見ながら、ミコトが答えた。ラメとパールでキラキラと輝くそれは、チープではあるが、宝石のようである。


 付けまつ毛をバサリと揺らし、ミコトは瞬きをした。あくびを噛み殺しながら。


「ボスは小さい体なのに、ちゃんとお母さんしててスゴイよねー」

「ミコトねーちゃんは結婚しねーのか?」


 恋愛知らずの少年であるが故の無遠慮な質問に、ミコトは顔を歪める。


「相手が居ましぇーん!」

「それもそうだな!」


 という無礼さ。にも関わらず、ミコトは「でっしょー?」と笑う。内心では、このガキゃあ……、とでも思っているのかもしれないが、一々怒っていてはキリがない。


「んでさ、ミコトねーちゃん。シンジはどこに居るか知ってるか?」

「シンジ……?」


 四天王で青色のオーバーオールを着ている男だ。夜はホストとして働いている。


「自分の部屋で寝てるんじゃない? どーしたのぉ? ユウヤ君がシンジの事気にするなんて、雪でも降っちゃう?」

「ザコがやられたら幹部の噛ませ犬が登場するのは、セオリーっしょ!」


 と、自称“正義のヒーロー”は、悪役のセオリーを高らかに叫んで右腕を突き上げた。




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