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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第三章『敵と味方』
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第二十八話『骨と負傷とカマキリ再び』―1




「骨……? 俺の? どこの?」


 転がった栗を拾いながら、翔は自分の体を見回した。答えたのは潤だ。


「腕が手っ取り早いかな……」


 会話を聞いていた恵未が、口の端に付いているケーキの欠片を舐め取った。


「翔君の骨ですか? そういえば、凌がなんか言ってました。瞬発力ゼロ、体幹弱い、基本が壊滅状態、宝の持ち腐れ……だったかしら」

「え……なんだか凄い言われよう。いつもだけど。本当の事だけど。俺、一応神様なんだけど」

「だから、宝の持ち腐れなんじゃねぇか?」


 なるほど、とあっさり拓人の意見に同意し、翔は拾った栗を口へ招き入れた。

 のんびりと栗羊羹を頬張っている翔に、翔君って面白いわね、と恵未は笑った。


 おやつタイムが終了すると、潤は届いた書類を確認し始めた。


 恵未は「翔君の利き腕は右?」と尋ねた。翔が頷くと、自分の唇を一週舐めながら、翔に右腕を伸ばすよう言い、その裾を捲り上げた。


 拳を突き出した状態で待つように言われ、翔は腕を真っ直ぐ伸ばしたまま待機している。


「じゃ、失礼しまーす」


 トン、と軽く恵未の手刀が当たると、翔の肘はパキッと軽い音を立てて折れ、前腕がぶら下がった。


「え……っ!?」


 驚きの声を上げたのは、様子を見ていた拓人だ。幼馴染みであり相方の腕が突然折られたのだから、当然といえば当然の反応だろう。

 当の本人である翔は、プラプラしている腕を目で追っている。


 特にリアクションもなく、恵未は次の動作に移った。

 翔の左腕を掴むように両腕を添えると、まるでたらば蟹の足でも折るように、ボキッ、と橈骨(とうこつ)尺骨(しゃくこつ)を同時に折り曲げた。


 綺麗にバッキリと真っ二つに折れ曲がり、間接がもうひとつ増えたようになっている。折れた――かといって、肉から骨が覗いているわけでもない。

 骨の裂け目を繋ぐように手で押さえると、恵未は拓人にこのまま押さえているよう頼んだ。

 翔は翔で、何か分かったの? と期待の眼差しだ。


 恵未は、そうねー、と翔の腕を(つつ)く。


「随分骨密度が低くてスカスカね。飛ぶためかしら。鳥の骨みたい。それを埋める事は、体質上無理でしょうね。でも、骨自体を強くする事は出来るかもしれないわ」


 顎へ手を添えて少し考えると、恵未は翔の下腹へ手のひらを当てた。


「私が力を入れたら、ゆっくり鼻で呼吸をしてみて」


 言うが早いか、次の瞬間には腹圧が掛かり、翔は呼吸どころではなくなった。息を吐く事も、吸う事もままならない。

 しかしその状態が十数秒続いた頃、やっとの思いで、ゆっくりと呼吸が出来た。数回呼吸を繰り返すと、恵未の手は離れた。


「今度は腹部の力はそのままで、肺いっぱいに酸素を取り込むイメージで、長く深く呼吸をしてみて」


 三十秒ほど待ち、恵未は拓人に、翔の腕から手を離すように言った。

 すると、ボッキリと折れていた翔の腕が、ぶら下がる事なく、真っ直ぐ伸びている。骨折は二ヵ所とも治っていた。

 翔は元々の自己再生力がずば抜けてはいるが、僅か一分ほどで、完全に折れた骨を二ヵ所とも治す事など出来なかった。驚異的な回復力だ。ただ、翔は座り込んで、ぜぇはぁと肩で息をしている。床に点々とついた汗の染みが、じわりと広がった。


「うん。不器用って聞いてたけど、上出来ね。翔君は、コツさえ掴めばちゃんと出来る子だわ!」


 偉いわねー! と、恵未は翔の頭を撫でつつ、


「じゃあ、今のを忘れない内に、次は三分間くらい続けてみてね」


 と、まだ汗だくで荒い息を繰り返す翔に、ニッコリ笑って言い渡した。そして笑顔のまま拓人に体を向け、拓人君はもう出来てるものね、と指差した。


 但し、拓人は腑に落ちない表情をしている。


「恵未さんのは、オレのと少し違いますよね」

「丹田呼吸によく似た呼吸法よ。セロトニン呼吸なんかも取り入れてるわ。基礎代謝を上げて、体を神経レベルから強化するのは同じね。私たちは“臍下(せいか)”を(もじ)って“草華(そうか)呼吸”って呼んでるわ。踏まれても折られても自力で立ち上がる雑草の如く、且つ、可憐に咲く花のように美しく……ってね」


 ま、呼吸法の名前なんて、どうでもいいんだけど。と恵未は肩を竦めて腕を組んだ。


「拓人君のは、秀貴(おとう)さんに教えて貰ったのかしら。体と一体化していて、とても静か。尚巳と同じ匂いがするわ」


 尚巳の名前が出て、拓人は苦笑した。尚巳に教えたの、オレなんですよ――と。

 そこで恵未は手をひとつ叩いた。


「そうだ。あなた、尚巳と同い年なのよね」


 拓人が頷くと、恵未はもう一度手を叩いた。


「じゃあ、私とも同い年ね。敬語で話さなくていいわよ」


 実のところ、化粧気のない所為で中学生にも見える恵未だが、拓人は自分より年上だと思っていたので面食らった。マジかよ! という言葉を押し留める事が出来た自分を、こっそり褒めた。


 言葉をなくしている拓人の横では、恵未が翔に「お疲れ様、三分経ったわよ」と肩を叩いている。


 翔は潰れた蛙のように床にへばりつき、その場に汗の水溜まりを作っている。


 そこへ洗い物を終えた康成が登場し、悲鳴が上がり、翔の上にバスタオルの山ができ、翔は窒息をしかけ、また謝罪混じりの悲鳴が上がった。




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