第8話 ボスは、町を知らなかった
その男は、強そうだった。
声を荒げない。
脅し文句も少ない。
だからこそ、今まで負けてこなかった。
マフィアのボスは、
町を“弱さの集合体”だと思っていた。
夜。
町外れの倉庫。
ボス
「……脅せば従うと思った」
淡々と、事実を語る口調。
ボス
「店を壊せば黙る 人を殴れば縮こまる
それが“町”だろう?」
部下たちは頷く。
だが、空気が違う。
外。
一人、また一人。
音もなく、人が増えていく。
・商店主
・老人
・若者
・子どもを連れた親
・仕事帰りの人
誰も拳を握っていない。
誰も叫ばない。
ただ、立っている。
パトカーが、数台。
だがサイレンは鳴らない。
警察官
「不法占拠、器物損壊、脅迫の疑い」
行政職員
「記録、すべて残っています」
紙とファイル。
数字と日時。
逃げ道を塞ぐのは、暴力じゃない。
さっちゃん、前に出る
白衣のまま、杖をついて。
さっちゃん
「ここね」
さっちゃん
「逃げ場しかない町ですよ?」
ボス
「……意味が分からん」
さっちゃん
「この町の人たちはね」
さっちゃん
「逃げるとき、必ず“誰かを連れて逃げる”の」
さっちゃん
「だから、一人だけ逃げる人を許さない」
ミツ婆
「出ていきな」
ケンジ
「ここは、俺たちの町です」
黒川
「暴力はいらん。帰れ」
誰も殴らない。
誰も近づかない。
でも、誰もどかない。
ボスは、初めて周囲を見回す。
・怒りじゃない
・恐怖でもない
・正義感ですらない
生活の目。
ボス
「……チッ」
その舌打ちは、
敗北の音だった。
さっちゃん
「治療、終わり」
「もう、この町に、あなたの居場所はない」
暴力を使わず、勝敗が、静かに決まる。




