第7話 マフィア内部に、ズレが生まれる
変化は、派手に始まらなかった。
むしろ
気づいたら、町の呼吸が揃っていた。
裏路地。
黒服たちが集まっている。
マフィアB
「……あいつ、病院行ったらしいな」
マフィアC
「医者に? あの鬼の?」
マフィアB
「殺されなかったらしい」
沈黙。
マフィアC
「……弱い顔、見せたってことか」
マフィアB
「いや」
マフィアB
「助けられたって顔だった」
その一言で、空気が変わる。
暴力で支配する組織にとって、
「借り」は最も厄介な病だった。
一方、町。
診療所の裏。
黒川、ミツ婆、ケンジ、数人の店主が集まる。
机の上には、
・日時
・場所
・黒服の人数
・言動
手書きの記録ノート。
ケンジ
「全部、事実だけ書いてます」
黒川
「噂はいらん。 事実は、刃になる」
ミツ婆
「刃はね、 振り回すもんじゃない」
ミツ婆
「置いとくだけで、 近寄れん場所もある」
昼間。
警察署。
森下(元市職員)が同行している。
警察官
「……被害届は?」
さっちゃん
「出します」
さっちゃん
「全員で。 日付と内容を揃えて」
警察官
「それなら、 “組織的被害”として扱えます」
さっちゃん
「それで十分」
診療所の前。
警察の巡回が、
“何も起きていないのに”増える。
マフィアは気づく。
「派手に動くと、 面倒なことになる」と。
夜の見回り(非武装)
夜。
町の灯り。
ケンジたち若者と、
黒川や老人たちが一緒に歩く。
手には懐中電灯と、
反射ベスト。
武器はない。
ケンジ
「正直…… 殴りたい気持ちはあります」
黒川
「あるじゃろ」
黒川
「でもな」
黒川
「殴らんと決めた町は、 意外と強い」
遠くから、黒服がそれを見る。
人数が多い。
年寄りも、子どももいる。
録画されている。
マフィア
「……面倒くせぇ」
撤退。
見回りの帰り。
ミツ婆が、ぽつり。
「静かな町ほど、逃げ場はない」
ミツ婆
「怒鳴らん町は、長生きする」
診療所。
カルテを閉じながら。
さっちゃん(独白)
「暴力は、声が大きい」
さっちゃん(独白)
「でも....続くのは、黙って動く人たち」
窓の外。
町の灯りが、
一つずつ消えていく。
そして気づく。
荒らす側より、守る側の方が多いことに。




