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【12/17コミック発売】捨てられた聖女はダンジョンで覚醒しました〜真の聖女?いいえモンスター料理愛好家です!【書籍化】  作者: 朝月アサ
第三章 アルケミスト・ラビリンス

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115/199

115 好きな人





 モンスター料理に胃も魔力も充分に満たされて、リゼットは寝袋に入って休んだ。


「――リゼット」


 レオンハルトに軽く肩を叩かれ、潜めた声で名前を呼ばれて目が覚める。見張り交替の時間だ。

 寝袋から起き上がると、まだ雨音が聞こえた。花畑には雨が降り続いている。


 リゼットは何度か目を瞬かせる。深く眠っていた頭と身体は中々はっきりとしない。


「やっぱり、もう少し寝ていた方がいい」

「いえ、大丈夫です」


 ディーを起こさないように声を潜めて答える。

 睡眠時間は平等に取るべきだ。そのため蝋燭に等間隔に記しを入れて、そこまで燃えれば交替する方式を取っている。


 とはいえこのままではすぐに眠ってしまいそうだ。それでは見張りにならない。


「――レオン、あの、少しだけいいですか」

「ん?」


 眠気を覚ますためにも、そしてちょうどいい機会でもあった。少しだけ話したくて声をかける。レオンハルトも眠いだろうから手短に。


「……レオンに、ちゃんとお礼を言いたくて」


 寝袋の上に座り、姿勢を正す。

 レオンハルトは少し驚いたような顔で、リゼットを見ていた。


「最初のころ――あ、いえ、いまもですけれど、初心者で不慣れな私に、ダンジョンでのことや、色んなことを教えて下さってありがとうございます」


 頭を下げる。


「私、このダンジョンで一人になったとき、改めて気づいたんです。レオンにたくさんのことを教わっていたことに。そして、ずっと助けられていたことに」


 ノルンのダンジョンの中で、偶然出会って、ほぼ強引にパーティを組んでから、ずっと。

 ダンジョンの知識は少しばかりあったが、祖母から聞いていた知識だけでは、自分一人の力だけでは、きっとどこかで死んでいた。いまごろダンジョンの土になっていたかもしれない。


 リゼットはこれまで多くの人たちと出会い、助けられてきたが、一番力を貸してくれたのは間違いなくレオンハルトだ。ダンジョンのことも、モンスターのことも、世界の広さも、正義も、強さも。たくさんのことを彼から教わった。


「本当に、ありがとうございます。できたらこれからも――……い、いえなんでもありません……」


 未来の話まで勢いでしそうになって、慌てて口をつぐむ。これから先のことまで求めるのは、あまりにも欲深い。


「……以上です。それでは後は任せてください。ゆっくり休んでくださいね」


 静かに聞いていてくれていたレオンハルトに睡眠を促す。

 だがレオンハルトはそのままの姿勢で、リゼットを見たままやわらかい微笑みを浮かべた。


「――リゼット。俺の方が、ずっと君に助けられている」

「そうでしょうか……なら、嬉しいです」

「うん。これからもよろしく」


 笑った顔、やさしい声は、どんな不安も悩みも吹き飛ばしてくれる。

 リゼットも笑って、頷いた。


「はい。よろしくお願いします」


 未来のことを、これからの約束ができるのは、嬉しい。胸の奥があたたかくなる。


「そうだ。レオンの好きな人って、どんな人ですか?」

「…………っ」


 レオンハルトはあからさまに動揺した。顔が強張り、身体が硬直している。

 リゼットは慌てた。


「ご、ごめんなさい、ずっと気になってしまっていて。やっぱりいいです。おやすみなさい」


 不躾な質問だった。プライベートに踏み込みすぎだ。深く反省し、早く見張りを交替しようとしたが、レオンハルトは動かなかった。


「…………」

「…………」


 お互いに黙ったまま、動けないまま、身体は向き合っているのに視線は逸らしたまま、時間が経過していく。


 なんてことを聞いてしまったのか。後悔しても遅すぎた。


「……すごく、前向きで」


 長いような短いような沈黙のあと、レオンハルトが口を開く。

 うつむき加減で、やや視線を逸らして。


「優しくて、芯が強くて……いつも、好きなことに一生懸命で――……」


 途切れがちに話す。緊張した顔を、焚き火が赤く照らしていた。

 その表情と、声と、言葉で。真剣に話してくれていることが伝わってきた。


 リゼットの胸に痛みと寂しさが去来する。彼の想い人への気持ちが、とても純粋で真摯なものだと伝わってくるほど、胸の痛みは強くなる。


 それと同時に、どこか安心したような気持ちも湧いてきた。もうこれ以上、不思議なざわめきに振り回されることはないのだ、と。


「――リゼット」

「は、はい」


 緊張した声で名前を呼ばれ、顔を上げる。

 みっともない顔をしているのではないかという不安は、目が合った瞬間にどこかに消える。


 エメラルドグリーンの瞳にまっすぐに見つめられると、何も考えられなくなる。綺麗な色に吸い込まれそうになる。

 心臓の鼓動が速まり、体温が上がる。


 再び、互いに口を開かないまま時間だけが過ぎていく。沈黙も、ざわめきも、雨がすべてを飲み込んでいく。


「俺は――……」


 バキッ、バキバキッ――


 雨音を引き裂いて響いてきた破壊音。

 壁に空いている物見の穴から、二人で並んで外を見る。

 夜が来ない空の下と、深い森の間に、森の大樹より背丈の高い影が移動していた。


 モンスターだ。


 ゆっくりと歩く姿は巨人のように見える。相手はこちらには気づいていない。遠すぎるからか、リゼットの鑑定魔法が効かない。


「……あの巨体に、背の瘤……トロルか」


 レオンハルトは、ゆらゆらと揺れる動きとシルエットだけで、どのモンスターかを推測する。さすがの知識だった。


「トロル……あれがこの階層のボスでしょうか」

「多分。次は向こうの方を探索してみよう」

「はい。それでは、見張りを交替しますね。おやすみなさい」

「あ、ああ……おやすみ」





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[一言] |ω・*)ヘタレた………………(笑)
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