今日は給料日
今朝も元気に五人で村役場に出勤です。
そして今日は待ちに待った給料日。
これでガッツり減った預金残高を何とか回復させ、クレジットカードの引き落としに堪えることができる。
いつものようにアリスは受付に座り、小町は販売所に座る。
エミリアと千里は新居のリフォームへ。
「多分今日でリフォームは終わるからね」
「ゲンボクちゃんも後で見に来てよ!」
さすがだエミリア、千里。
そしたら明日から前倒しで荷物の搬入を始めちゃってもいいかもしれないな。
本日最初の仕事は報酬明細を届けに議員三人と村長のところへ出向くこと。
すると村長が珍しいことを言い出した。
「ゲンボクや、今日はお嬢ちゃん達の初めての給料日じゃろう?」
「おう、こないだ渡した明細の通りだ」
「ならば、今日はわしが渡すとするかの」
あー、それは嬉しいかも。
あいつら基本的に俺しか知らないから、村長からそうしてもらえると、ありがたみが違うかもしれない。
「それじゃゲンボク、車いすを押してくれるかい?」
「任せな」
村長の婆さんは「猫又」や「九尾の狐」もかくやと言うばかりの年寄りなのだが、身の回りのことは基本全て自分でこなせる。
まあ、この村の爺さん婆さんは全員がそうなんだけれど。
実際、自分で身の回りのことができなくなったら、その潤沢な財産とともに町の老人ホームに入居と言うことになるのだが、そこはダム完成後もこの村に居座った剛の者たち。
老人ホームに入るくらいならここで死ぬくらいのことは平気で口走る。
しかし俺がこの役場で働き始めてから、村人が病気やけがをしたところを見たことはないのだが。
「それじゃ村長行くぞ」
って、あれ? こんなに軽かったかな?
いや、婆さんが軽くなったのではない。
車椅子に重さは確かに感じる。
ところが何故か車椅子は抵抗なく滑らかに進んでいく。
何か、重厚なトルクに裏打ちされたように。
俺の地力が上がっているのは間違いないのだろう。
「いつもより車椅子の乗り心地がいいの。さてはゲンボク、お嬢ちゃん達と鍛えたな?」
「アホか」
百歳超えたバケモノがナマモノの話をするんじゃねえよ。
「村長様、おはようございます」
村長を見つけたアリスが受付席から立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
今日の総菜用に奥で焼いた干物をほぐしていた小町も、アリスの声に気付き、受付に出てきた。
「村長様、おはようございますなの」
「おうおう、アリスも小町も可愛いのう」
村長はご機嫌だ。
するとエミリアと千里も休憩に帰ってきた。
「あら村長さん、お元気そうだね」
「村長おはよー!」
「エミリアと千里も可愛いのう」
エミリアも子供扱いかよ。
でもまあ、百歳越えの婆さんから見ればエミリアも小町も同じようなもんか。
それでは給料袋を出してくるとしよう。
「まずはゲンボクからじゃの。木野虚玄墨殿、お疲れさんじゃ」
うーん、課長昇進と相まって、感慨深いものがあるな。
こうして村長から給料をもらうのは何年振りだろう。
まあ、俺は口座振込になっているから明細書だけなんだけれどな。
続けて四人の名前が呼ばれる。
「アリス」
「小町」
「エミリア」
「千里」
四人とも名前を呼ばれて、改めて恥ずかしそうな表情で婆さんから給料袋を受け取っている。
たまにはこういうセレモニーも必要だな。
「それじゃわしは帰るよ、ゲンボクや、頼めるかい?」
すると千里がすっと車椅子の後ろに張り付いたんだ。
「ボクが送っていくよ」
エミリアも車いすの横に移動している。
「あたしも付き合うとするかね」
一方で小町が台所でごそごそし始めた。
「村長様、これ持っていくの」
小町が村長に差し出したのは、焼いてほぐした干物とほうれん草をあえた惣菜。
「これはうれしいねえ。お昼にいただくよ」
村長は干物を大事そうに抱えると、そっと目頭を押さえている。
当然俺とアリスは見て見ぬふりだ。
こうして千里が押す車椅子に乗り、エミリアに付き添われながら、村長は家に帰って行った。
こりゃ、村長は完璧に落ちたな。
さて、その日の夜。
夕食後に四人が神妙な表情をして俺の前に並んで座ったんだ。
何だろ?
するとアリスが皆を代表するかのように口を開いた。
「こちら、すべてゲンボクちゃんにお渡しいたします」
彼女たちが差し出したのは、封も切っていない給料袋。
「どういうことなんだ?」
するとエミリア、小町、千里がアリスに続いた。
「あたし達が持っていても使い方がわからないしね。任せるってことだよ」
「ゲンボクちゃんに使ってほしいの」
「その代わりお小遣い頂戴ね」
「いいのかお前ら?」
なんかジーンとくるなあ。
そんなに俺のことを信頼してくれているのか。
四人とも愛しているよ。
ん?
ところで、何をもじもじしてんだアリス。
「その代わりと言っては申し訳ないのですが」
「何だいアリス」
何でも言ってごらん、お兄さんただいまご機嫌だからさ。
「あの、これを使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
アリスが指差したのは、俺の認証で開いている通販サイト「密林」のパソコン画面。
そうか、そうだよな。
お前達も買い物したいものな。
そのささやかな希望、受け入れてあげよう。
「いいのかいゲンボクちゃん!」
「いいの?」
「やったー!」
え、何その大げさな喜び方は?
「それではまずは私からですね!」
「一品ずつ順番なの!」
「あたしは下着コーナーを早く見たいよ!」
「改造パーツ見たいー!」
あっという間に、俺はパソコンの輪からはじかれてしまった。
いつの間にかアリスのパソコン操作が熟達している。
「エア注文で訓練しましたの! 頑張りましたの!」
「そうか、大変だったな」
で、密林画面がくるくると変わる。
「このショーツは他の色はないのかい?」
「棒付きキャンディーをポップごとまとめ買いするの」
「あー、部品が在庫切れって何だよもう!」
確か密林って、元々は本屋だったはずなのに、こいつらは本を一冊も注文していない。
いつもの車内のように四人でわいわいと始めている。
こうなるとしばらく俺の居場所はない。
それでは小町が買ってくれた焼酎でも舐めるとしよう。
こうして小一時間の時が過ぎていく。
「それではお支払い画面に移動いたします!」
アリスの掛け声とクリックとともに「お買いもの合計金額」が表示される。
「お前ら、その金額って、お前ら二人分の手取り金額と同じだぞ」
何で一気に使ってんだよ。
わかった、四人でこちらに注目しなくていい、何とかするから。
これなら猫の運送屋も、採算が合わないとか俺に文句は言わないだろうな。
一方でクレジットカードの使用限度額も上げておかないと、これはやばいかもしれん。
その日の夜は、買い物にすっかり満足した様子のアリス、エミリアと、いまいち不満そうな小町、千里たちと順番でピロートークに引きずり込まれることになった。
アリスは今日自分が購入したものが、いかに素晴らしいものかを嬉しそうに俺に語る。
アリスのいいところは、皆で使えるものを優先するところだな。
他の三人が何を購入したのかも全て把握しているようだ。
アリスはいわゆる「ファイリング」の能力に長けているのだろう。
小町はどうも売店に置いてある家庭用の冷蔵庫が気に入らないらしく、販売用の冷凍ショーケースが欲しかったらしい。
ところがあまりのお値段に諦めたそうだ。
ならば村役場の経費で落とすとしようか小町よ。
エミリアは相変わらず下着を買い込んだらしいが、そこは見た目年長さん。
それぞれが荷物部屋で使うであろう小さな整理たんすも注文したということだ。
さらに先日の買い物では本人が酔っ払ってしまったために買えなかった様々な収納用品も注文したらしい。
ホントこいつは色っぽい見た目と堅実な中身のギャップがすごいよな。
ところでよくわからないのが千里。
どうも彼女は自分の分身を改造したくてたまらないらしいのだが、部品を見てもイメージがわかないそうだ。
で、結局今日は余り買い物をしなかったらしい。
そんな残念そうな顔をするな。
お前は俺との二人きりのドライブが待っているのだからな。
ということで、今日も平和に一日が終わるのであった。
当然全員に一回ずつのエネルギー充填は済ませましたよはい。




