それぞれのこだわり
さて、数分後。
不満げな表情でエミリアが量販店から出てきた。
「ゲンボクちゃん、ちょっと来てくれるか」
「どうしたエミリア?」
エミリアが俺の手を引いてやってきたのは量販衣料店の女性用下着コーナー。
さすがに俺がそこに行くのは気恥ずかしい。
「ちょっと待て」
しかしエミリアは止まらない。
「ゲンボクちゃん、お前はあたしに、こんなガキみたいな下着を身につけろというのかい?」
「そうなんですか?」
俺にはちょっとよくわからないんですが。
「そりゃあアリスや小町にはこんなのが似合うだろうよ。でもね、あたしのセクシーなボディを包むには物足りないんだよ。わかるかいゲンボクちゃん」
わかんねえよ。
よくそこまで自分ことを持ち上げるよな。
とはいっても、エミリアのご機嫌を損ねたままなのも面倒くさい。
「よしわかった。下着は専門店街にいこう。ここではアウターを買っておけ」
「わかっているねえゲンボクちゃんは」
わかってねえけどよ。
しかし下着売り場ではセクシーなボディーがうんちゃらとご高説をぶっていたのに、ここで選ぶのはTシャツとかカーゴパンツとかなのかよ。
よくわかんねえな、エミリアのこだわりは。
「こんなもんかね」
エミリアが選んだ衣料を、一旦清算してしまう。
「それじゃ一旦車に荷物を置いて、専門店街に行くとするか」
「こうだよ、下着はやっぱりこうでなきゃ!」
エミリアはランジェリーショップで華やかな下着を前に興奮しきっている。
「そりゃよかったな、とりあえず一週間分くらいは買っておけよ」
って、何だよあの夢中になった表情は。
量販店で適当にアウターを選んでいるときとは大違いじゃねえか。
「それじゃあ後で代金を払いに来るからな、それまでに選んでレジに預けておけよ」
「なんだい、一緒に選んでくれないのかいゲンボクちゃん」
「無理を言うな」
既に店員さんや他の女性客からの視線が痛いんだよ。
それでは小町の様子を見に行ってみよう。
なんだ小町は、ちっとも買い物が進んでいないじゃないか。
床にしゃがみこんで何を唸ってんだ?
すると小町も俺の姿に気づいた。
「ゲンボクちゃん、あのね、ピーナッツとキャラメルといちご、どれがいいと思う?」
小町の目の前には、ロングセラーのチョコ菓子が三種類並んでいる。
「どれってお前、全部買えばいいんじゃないの?」
なんだよそのキラキラした目線は。
「全部買っていいの?」
「お前、一万円持っているのに、何で六十円ちょっとのお菓子で悩んでるんだ?」
「ゲンボクちゃんのお陰で勇気出たの!」
そりゃあよかった。
って、20ケース入りを箱買いかよ!
きのことたけのこも箱買いかよ!
わざわざ陳列棚の後ろから未開封箱を取り出すのかよ。
「もっと色々なのを一つづつ買ってもいいんだぞ」
「一つづつだとおじいさんとおばあさんのところに持っていけないの」
あー、そういうことか。
小町は気が利くなあ。
「それじゃ、何かあった時のために、もう千円持っておきなさいね」
「ありがとゲンボクちゃん」
はいはい、お前も引き続き買物を楽しんでくれ。
さてっと、アリスの様子はどうかな。
お、いたいた。
ちょっと隠れて様子を見てみるか。
ん、ニットか。
そうだな、そろそろ秋だしな。
「あ、ゲンボクちゃん!」
ありゃ、見つかっちまったか。
まあ、ここは下着売り場じゃないから平気だな。
「ねえゲンボクちゃん、五万円って大金なのです」
「どうして?」
「どうコーディネートしても三万円以下にしかならないのです」
そうなんか?
「試しに試着姿を見せてみ」
「わかりました、店員さん、先ほどのをもう一度お願いできます?」
営業スマイルを浮かべた店員さんがてきぱきと衣服を持ってきて、試着室のアリスに渡した。
そこから待つこと数分。
ほう。
ほほう。
こりゃ可愛いな。
ラフなTシャツにニットのトップスを羽織り、フレアスカートにはパンプスを合わせるのかあ。
これで総額三万円はリーズナブルだな。
まあ、店の方だって田舎のショッピングモールに高額商品を置いてもしょーもないしな。
「ね、だから困ってしまうのです」
「何を困っているんだ?」
「これでは三万円にしかならないのです」
ああ、オレが一式五万円って言ったことを守ろうとしているのか。
「そしたら、このコーディネートを基本にして、店員さんにバリエーションをつけてもらいなさい」
「いいの? ゲンボクちゃん」
「いいんだよ、爺さんどももその方が喜ぶだろうよ。ついでにアクセサリーも買っておけ」
再び試着室にこもったアリスに一声かけてから、次に移動だ。
さて、今度はエミリアの下着代を払いに行くかな。
ありゃ、店にはいねえし。
「お客様、先ほどのお美しい方からこちらをお預かりしておりますが」
あ、お店に預けたのね。
「じゃあそれを下さい」
ちっ、いいお値段だなあ。
ところでどんな下着を選んだんだろ。
ついつい袋を開封してみたい欲にかられてしまう。
いかんいかん、これは夜の楽しみにしておこう。
それじゃあ俺たちの食料と、酒も買っておくか。
お、エミリアだ。
ホームセンターの店頭にしゃがみ込んで何してんだ?
するとエミリアもこちらに気づいた。
「あ、ゲンボクちゃん、お願いがあるんだよ」
「なんだいエミリア?」
セクシーな上目遣いは、主に下半身に対して来るものがあるから、今はやめておこうな。
「ねえ、これを買ってくれないかい? 絶対役に立てて見せるからさ」
「これ?」
これってそんなに、身体をしならせて誘惑しながらおねだりをするようなものか?
なんでさっきの下着コーナーよりエミリアの目が潤んでいるんだ?
俺とエミリアの前に陳列されているのは、ドイツ製の「家庭用高圧洗浄機」
「お願いだよゲンボクちゃん、買ってくれたら何でも言うことを聞くからさ!」
何でも言うことを聞くと来ましたか。
それじゃあ俺もちょっと挑発してみようかな。
「ふーん、そんなに気にいっちゃったのね。で、あっちじゃダメなの」
「あーん、あっちの方がいいに決まっているじゃないか! 意地悪しないでよゲンボクちゃん!」
俺が指さしたのはもっとお値段の高いやつ。
ちなみにたくさんのアタッチメントがついている。
よし、新規業務にも使えそうだし、村役場の経費で落とすとしよう。
「そしたらエミリア、あれを役場の機材として購入するから、お前専用の仕事道具にするっていうのはどうだ?」
「本当かい! ああ、夢のようだよゲンボクちゃん! こうなったら役場の隅々までお掃除しちゃうからね」
衣類よりも下着、下着よりも清掃用品の方がランクが上位なのね、エミリアの中では。
それじゃ作業用におそろいのツナギを買っておくとしようか。
「エミリアはサイズの合う長靴も選びな。安物じゃなくて、ちゃんとしたのを買うんだぞ」
「試着してもいいかいゲンボクちゃん!」
「満足するまで試着して来い」
高圧洗浄機に全員分のツナギとエミリアには長靴も併せて購入、当然お店からは村役場宛の領収証をもらっておく。
「それじゃあエミリア、一緒に小町とアリスを探すのを手伝ってくれるか」
「わかったよ、今日のあたしはゲンボクちゃんの奴隷だよ!」
本当に表現が極端だな。
人前で堂々と奴隷宣言かよ。
今度は家電売り場で小町が何かをのぞき込んでいる。
あーあ、足元にお菓子を置きっぱなしだし。
「あ、ゲンボクちゃん。小町、お願いがあるの!」
えらい興奮してるね小町。
「はい、なんでしょう」
「小町はこれが欲しいの!」
小町が上開きのふたを開けてのぞき込んでいたのは冷凍庫。
「お前もこういうのがいいんかい」
「ゲンボクちゃん、何でもするから買ってほしいの」
何でもするとか言うな合法ロリ、横のおっさんがなにごとかと驚いているじゃねえか。
あ、そっか。
これを車に積んでやればいいんだ。
どれどれ、必要ワット数はどうかな。
うん、車載コンセントの規定以下だね、これなら大丈夫だ。
「なあ小町、これを買うけど、車内でも使っていいか?」
「問題ないの」
よし、購入決定。
これも村役場の経費で落とそう。
これで次回からは冷凍食品も購入可能になるな。
最後にアリス。
なんか嫌な予感がする売り場だなあ。
「ゲンボクちゃん、これを買ってはいただけませんか?」
アリスが手にもって目をトロンとさせているのは、電動マッサージ器。
通称「バイブレーター」
「お前ね、周りのお兄さんやおじさんたちの目が気にならないのかい?」
「こうやって肩にあてると、とっても気持ちがいいのです、ああ」
「わかった。すぐ買ってやるからここで使うのはやめろ、やめなさい!」
すいませんね皆さん、お騒がせしまして。
ということで、買い物はなんとか無事終了。
次は昼食だ。




