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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?

冤罪で追放された悪役令嬢ですが、廃ダンジョンをドールハウス感覚でリフォームして引きこもります。え? 配信? 何それ美味しいの? (3)

作者: 伊部 なら丁 with Gemini3
掲載日:2026/02/15

【冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?】シリーズ No.3

「落札しましたァァァ!!!」


ダンジョンの静寂を切り裂く、私の勝利の雄叫び。震える指先が、空中に浮かぶホログラム画面の「オークション終了」の文字をなぞる。やった、ついに手に入れた。幻のネオブライス、アニバーサリー限定「プリンセス・アラモード」! あのフリフリのドレス、透き通るような肌。競合相手との壮絶な入札合戦を制し、彼女は私のものになったのだ。


「ふふふ、私のドール部屋のセンターは貴女よ……って、あれ?」


興奮が冷めかけた頃、ふと落札金額の桁が目に入った。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……ん? 「0」が、一個多い。「えっ……嘘でしょ? 15万じゃなくて、150万!?」


血の気が引いていく。


冷や汗がドッと吹き出す。競り勝ったんじゃない。私が入力ミスをして、とんでもない桁をぶち込んでいただけだ。これじゃあ生活防衛資金どころか、老後の蓄えまで吹っ飛ぶ。キャンセル? いや、この「出品者:地獄の取り立て屋」みたいなIDの相手にそんなこと言えるわけがない。払うしかない。払わなけば、私のドールライフが終わる。


「金策……! 今すぐ金策を!!」


私の脳裏に浮かんだのは、前回の成功体験。「ガンプラ配信」だ。あれならチョロいお兄様方が湯水のように投げ銭をしてくれる。私は大慌てで通販サイトを開き、「ガンプラ PGパーフェクトグレード」と検索した。


『在庫なし』『在庫なし』『出品者:転売ヤー(価格3倍)』


「転売ヤー滅びろおおおおお!!!」ダンジョンの中心で呪詛を叫ぶ。物流は生きているのに、人気商品は死んでいる。世知辛すぎる。かろうじて定価で売っていたのは、頭身が縮んだデフォルメタイプの「BB戦士」だけ。


……いや、これはダメだ。


私の記憶の引き出しが開く。かつて幼い頃、クリスマスにこれを貰った兄が「違う! 僕が欲しかったのはリアルなやつだ!」とツリーの下で号泣し、ひっくり返っていたトラウマ映像。「男の子はリアルさを求めてるのよ。こんな二頭身じゃ、あの『チョロい』熱狂は作れないわ……」


万事休すか。


私が頭を抱えてテーブルに突っ伏したその時、ふと視界の端に広告が流れてきた。『機動戦士ガンダム(初代)、YouTubeで一挙無料配信中!』……これだ。閃いた。いや、舞い降りた。ガンプラがないなら、本家を見ればいいじゃない。


「私って、天才?」


即座に配信枠を確保。タイトルは『【初見】女の子と一緒に「初代ガンダム」見よう♡』。フェンリルを足元に侍らせ、私は女優モードで配信ボタンを押した。「こんばんわぁ〜。なんかぁ、有名なアニメなんですよね? 一緒に勉強したいなって思ってぇ♡」


開始5分で同接が跳ね上がる。


「おおお! 初代を見るのか!」「俺が解説してやる!」画面の向こうの王国民や騎士たちが、釣れた魚のようにピチピチと跳ねているのがわかる。物語は進み、主人公アムロが故郷を離れるシーンへ。そして、アムロのお母さんが登場した瞬間、コメント欄が加速した。


『ここ! ここ重要!』


『映画版だと声優が違うんだよな〜』『テレビ版は倍賞千恵子じゃないんだよ』……私は適当にコメントを拾う。「えー、そうなんですかぁ? 映画だと違う人がやってるんだぁ。倍賞……みつこ? さん?」


『ちげえええ! 千恵子! 倍賞千恵子!』


『倍賞美津子はアントニオ猪木の元奥さんだよ!』『でも姉妹だから惜しい!』『ドジっ子かわええええ!』『スパチャ投げとくわ!』……チャリーン♪ チャリーン♪ 50,000G!「あはは、ごめんなさぁい、間違えちゃった♡」内心でガッツポーズ。どっちでもいいわよ、そんなの。美津子でも千恵子でも、私にとっては「諭吉」にしか見えない。「アムロのお母さん、厳しいですねぇ〜(棒読み)」感想を適当に呟くだけで、画面が金色の文字で埋め尽くされていく。「お疲れ様でした〜! 次回は第14話 【時間よ止まれ】でお会いしましょう♡ 」


「君は生き延びることができるか?」


愛想笑いを張り付けたまま配信を切り、私はソファに沈み込むようにして大きく伸びをした。バキボキッ。背骨から悲鳴のような音が鳴る。長時間、画面を凝視してコメントを追いかけた代償だ。目の奥がズキズキと痛み、視界が少し霞んでいる。三十代の眼球に、ブルーライトの集中砲火はあまりにも過酷すぎる。


「目が……目がぁ……!」


ムスカ大佐のような独り言を呟きながら、私は目頭を押さえた。これはいけない。稼いだスパチャで潤ったのは懐だけ。肉体は枯渇している。こういう時こそ、デジタルデトックス。土と緑に触れる「丁寧な暮らし」が必要なのだ。私は立ち上がり、裏庭の家庭菜園エリアへと向かう。


眼精疲労、深刻。


今日のターゲットは決めてある。トマト、イチゴと来て、次に必要なのは「目に良い果実」。そう、ブルーベリーだ。私は通販で取り寄せた「奇跡のブルーベリー苗(アントシアニン3倍)」を、ドールハウスの庭に植える。じょうろで水をかけると、私のスキルが発動。苗木は見る見るうちに枝を伸ばし、青々とした葉を茂らせていく。


成長速度、バグ。


数秒後には、私の背丈を超えるほどの立派な低木が完成した。枝先には、大粒の真珠のような実が、鈴なりになっている。深い藍色、表面には新鮮さの証である白いブルーム。美しい。私は一番大きな実を摘み取り、そのまま口に放り込む。プチュッ。皮が弾け、爽やかな酸味と濃厚な甘みが口いっぱいに広がる。


視界、良好。


「ん〜っ! 染み渡るぅ〜!」即効性がすごい。食べた瞬間、目の前のモヤが晴れ、解像度が4Kから8Kに上がった気がする(気のせい)。私はザルいっぱいに収穫を始め、足元でヨダレを垂らしているフェンリルにも一掴み分けてやった。彼は器用に舌を使って実を巻き取り、幸せそうに咀嚼する。野生の魔獣も、ビタミン不足には敏感らしい。


健康第一、魔獣も同じ。


「そうだ、ヨーグルトにしよ」私は収穫したブルーベリーをキッチンに持ち込み、自家製ヨーグルトの上に山盛りにトッピングする。仕上げに、ダンジョン産のハチミツをたら〜り。白と藍色と黄金色のコントラスト。これをテラスで食べる。外の荒涼とした地下風景を見ながら食べる朝食(午後だけど)は、何物にも代えがたい贅沢だ。


映えスイーツ、完成。


スプーンで掬って一口。冷たいヨーグルトの酸味とハチミツのコク、そしてブルーベリーのフレッシュさが三位一体となって脳を溶かす。「はぁ……生きててよかった」。私が至福の溜息をついたその時、ふと空を見上げると、例の配信ドローンがまだこっちを向いていた。


あ、切り忘れてた。


どうやら今の「ガチ食い」シーンも、王都の空に生中継されていたらしい。コメント欄を確認すると、『俺たちのスパチャがブルーベリーになった!』『美味そうすぎる』『こっちは硬い黒パンなのに……』という阿鼻叫喚の嵐。元婚約者の王太子あたりが、この優雅なデザートタイムを見て、またハンカチを噛み締めている姿が目に浮かぶ。


飯テロ、無自覚。


「ま、いっか。食べたかったらスパチャしてね〜」私はカメラに向かって、紫色の舌をぺろりと出して見せた。挑発? いいえ、ただのファンサービスです。糖分とビタミンを補給し、私のHPは完全に回復した。さあ、次はどんな楽しみが待っているのかしら。


充電完了、無敵。


一方その頃、王城の作戦会議室。元婚約者の王太子は、スクリーンに映る私が「アムロのお母さん、厳しい〜」とポップコーンを食べている姿を、血走った目で見つめていた。「見たか! あの女、今は完全にアニメに夢中だ! 外部への警戒心など皆無に等しい!」彼はバンと机を叩き、三度目の出撃命令を下そうとする。しかし、傍に控えていた家臣が、青ざめた顔で進言した。


「殿下、おやめください!」


家臣は震えていた。「二度も失敗しているのです。あそこには、あの白い悪魔……フェンリルがいます。あくび一つで軍が飛び、耳を掻いただけで鎧が砕け散る化け物です。これ以上の犠牲は……!」騎士団はすでにPTSD寸前。しかし、王太子は不敵な笑みを浮かべ、黒い布で覆われた檻を指差した。


「ふふふ、安心しろ。策はある」


「我々も手に入れたのだよ。北の果てで発見された、伝説の魔獣の亜種……『ブラック・フェンリル』をな!」檻の覆いが取り払われると、そこには漆黒の毛並みを持つ、凶暴な狼が唸り声を上げていた。赤い瞳、溢れ出る殺気。これならあの白い悪魔とも互角、いやそれ以上に渡り合えるはずだ。「こいつを手懐けるのに、国庫の半分を使った。今度こそ勝ちだ!」


決戦の地、ダンジョン前。


重厚な扉の前で、王太子軍団が布陣する。私が「カイ・シデンって意外といい奴〜」と配信で語っている間に、彼らは包囲網を完成させていた。すると、またしても私のフェンリル(白)が、扉を押し開けてノソノソと出てくる。「来たな、白い悪魔! だが今日が貴様の命日だ!」


「行け! 暗黒の牙よ!」


王太子の号令と共に、解き放たれたブラック・フェンリルが弾丸のように飛び出した。黒い稲妻となり、白銀のフェンリルへと肉薄する。喉笛を噛み千切るか、それとも爪で引き裂くか。固唾を飲んで見守る騎士たち。二匹の巨体が激突する、その寸前だった。


「クゥン?(あれ、同郷?)」


ブラック・フェンリルが急ブレーキをかけた。鼻先数センチで停止し、スンスンと白い方の匂いを嗅ぎ始める。白い方も「ワン(お、新入り?)」とばかりに、黒い方の尻尾のあたりを嗅ぎ返す。殺気はどこへやら、二匹の尻尾が千切れんばかりに振られ始めた。


圧倒的、意気投合。


「は……? 何をしている、噛み殺せ!」王太子が絶叫するが、二匹にはもう届かない。黒い方は白い方にお腹を見せ、白い方は黒い方をペロペロと舐め回す。どうやら、「絶滅危惧種の伝説獣同士、久しぶりに会えて超嬉しい」という野生のバイブスが合致してしまったらしい。彼らはキャッキャとじゃれ合いながら、人間たちを尻目にダンジョンの中へと消えていった。


「嘘だろ……俺の国庫半分が……」


王太子はその場に崩れ落ちた。最強の兵器として連れてきたはずが、ただの「お友達紹介」になってしまったのだ。呆然とする彼らの頭上には、今日も私の配信ドローンが飛び、ガンダムのエンディングテーマ『永遠にアムロ』を虚しく響かせていた。


一方、ダンジョン内。


私が「次回予告も面白そう〜」と伸びをしていると、フェンリルが戻ってきた。その後ろに、見慣れない黒いモフモフを連れて。「あら、フェン? お散歩から帰ってきたの? ……っていうか、誰その子?」


「クゥ〜ン(拾った)」


フェンリルが誇らしげに胸を張る。黒い子も、私の足元に来て「撫でて?」と言わんばかりに頭を擦り付けてきた。なんて艶やかな黒い毛並み。まるで最高級のベルベットだ。「へぇ、お友達連れてきちゃったんだ。迷子かな? 可愛い顔してるじゃない」


多頭飼い、決定。


「よし、今日からあんたは『クロちゃん』ね!」私はクロちゃんの首元をワシャワシャと撫で回す。二匹のフェンリルに挟まれる、至高のモフモフサンドイッチ。ああ、なんて幸せ。外で王太子が「返せ! それは俺の!」と泣き叫んでいるような気もするけれど、防音壁が優秀すぎて何も聞こえない。


「さて、次はクロちゃんの首輪も買わなきゃ」


通販サイトを開き、またしても散財の予感。でも大丈夫。私には最強の集金システム(ガンダム配信)と、最強の番犬が二匹もいるのだから。


私の楽園は、今日も盤石だ。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


【冤罪で追放された悪役令嬢ですが、え? 配信? 何それ美味しいの?】シリーズ 展開中です。続きあります!


宜しくお願い致します。

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