表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/155

星月夜の誓い2

「ねぇねぇ〇〇〇、バイトしない――? しよう! しようよ⁉ お願いっ……してください‼」

 あれは高3のGW初日、前世の俺の部屋で、いきなりたたみかけて来たのは、従姉妹の『亜矢姉あやねえ』。

 両親が共働きで、家も近所だったから、毎日のように――夕飯の食卓を一緒に囲んだり、勉強を見てくれたり、ゲームでコテンパンにされたり。

 始めてバイト(コンビニ)の面接にのぞんだ時は、就活レベルのマナーを叩きこんでくれた――実の姉同然の、5歳年上の従姉妹は、ゲーム制作会社に勤めていた。


「バイト? ――どんなの?」

 一応受験生なので、勉強に専念するため、コンビニのバイトを辞めたばかりの身としては、正直気になる。

 ただ、小さい頃から押しが強くて、散々無茶ぶりされて来た相手だったから、警戒しながらたずねると、


「うちのチームが企画した、新しい『乙女ゲームアプリ』、連休明けの会議でプレゼンするんだけど……キャラデザイン担当のイラストレーターさんが、『急性虫垂炎もうちょう』で、入院しちゃったの!」

 幸い1週間程で、退院出来るらしいが

「それからじゃ、会議に間に合わない! お願いっ‼」

 両手を、ぱんっと合わせて

「『キャラデザイン』、描いてっ!」

 とんでもない『バイト』を、お願いして来た。


「いや、無理無理無理っ! 俺、専門的なこと何も習ってない、自己流で描いてるだけの――ただの『高校生』だよ? 無理に決まってるだろっ! プロに頼みなよ‼」

「知り合いに、何人か当たってみたけど、皆『スケジュールぱんぱん』で――『会議用の資料』だから、本格的じゃなくていいの! ざっと、イメージさえ伝われば!」

「ざっとって……そんなの、入院した人にも、失礼だろ⁉」

「大丈夫! あんたがSNSに上げた、イラスト見てもらって、『この子にだったら』って、OK貰ったから!」

「ぎゃーーっ‼ なに勝手に見せてんの⁉ しかも、そんなプロの人に!」

 死ぬ……恥ずかし過ぎて死ぬ。


 高校生になって、ゆるい部活の隙間すきまに、ぽっかりといた時間と心をめるように、描き始めたイラスト。

 同じクラスの、めっちゃデジタルイラストが上手い『師匠』に、いちから教えてもらって。

(『何であんな、オタクくんと仲いいの?』って、当時の彼女に聞かれて、『いや、あいつ、マジですごいんだって! イラスト超上手いし――ゴッホの有名な絵まで、デジタルで描けるんだぞ!』って力説したら、『意味わかんない。やっぱ合わないね、うちら』って、直後にふられました。そもそも告って来たの、彼女からだったのに……意味わかんないのは、そっちだっつーの!)


 剣道の影響から、昔の騎士とか軍人とかを、ぽつぽつ描いてたら、うっかり亜矢姉に見つかって。

『えっ、めっちゃいい! 筋肉の付き方とかポーズとか、リアルでカッコいいし――SNSにアップしなよ!』って、ぐいぐいすすめられて。

『いたずら書き』レベルだって、自分で分かっていたけど、ほんとたまーに『いいね』が付くと、飛び上がる位、嬉しかったけど。


「消す……今すぐ全部、削除する!」

 震える手で取ろうとしたスマホを、さっと、マットパープルの爪が光る指先に、さらわれる。

「まぁまぁ、落ち着いて! バイト代、『〇万』出るよ?」

 こそっとささやかれたバイト代は、今まで貯めて来たバイト代と合わせて、欲しかったタブレットに、手が届く金額だった。


「でも俺、人の顔描くの、苦手だよ?」

 師匠に借りている、お古のタブレットを起動させながら、念を押すと

「知ってる。キャラのバストショットは、もう出来てるから。あんたに描いて欲しいのは、『立ち姿』。

 大丈夫、見るのはウチの上司とスタッフだし。顔はささっと簡単に、『見本』見ながら、描いてくれればいいから」

 亜矢姉のお気楽な返事に、

「『見本』って?」

 再度、警戒しながら確認すると、

「これっ……!」

 じゃーん!と、自分のスマホのロック画面を、目をキラキラさせて、かかげて来た。


 そこに映っていたのは、7人のイケメン達。

「えーっと、この人達……モデル?」

「違う、アイドル! まぁ――まだ、『知る人ぞ知る』だけど」

「あんたが知らなくても、今日だけは許す」と、自分をなだめるようにつぶやいた、亜矢姉の口から

『5年以内に絶対、世界中で有名になる、某国ボーイズグループ』の情報が、ぶわーっ!と嵐のように、押し寄せて来た。


「参考画像と動画と、くわしいキャラ設定を送ったから、よろしくね! 明後日また、様子見に来るから!」

 怒涛どとうの勢いでしゃべりまくり、すっきりした顔で足取り軽く、帰って行った従姉妹。

 情報でぱんぱんになった、頭をそろりと動かして、とりあえず、スマホに送られた諸々(もろもろ)の一番上にあった、歌番組で新曲披露した時の、動画を開いてみる。

 シンプルな音に、印象的なラップが重なるイントロ――一瞬で、目が離せなくなった。


 指先や角度、タイミングまで、ぴったりそろった激しいダンス。感情を込めた、迫力ある歌声とラップ。言葉は分からなくても、歌詞の内容まで、伝わってくるような表情、動き。

「すげえ……」

 思わず、ため息がれる。

 こんな人達が、いるんだ。

 俺と同じ、この地球の上、同じ空の下に。


「――すげえな」

 もう一度(つぶや)いて、共有した画像とキャラ設定を、タブレットで開く。

 ん? 見本のメンバーは7人なのに、攻略対象キャラは6人?

「この、一番年下がいない。亜矢姉の『推し』っぽかったのに……。ストーリーの都合か何かで、(はず)されたとか? まぁ――そんな事もあるよな」

 と、ひとり納得してた俺は、後日

「ちょっと待て、シャーロットの顔――末っ子メンバーじゃんっ!」

 はたと気が付いて、愕然がくぜんとする事になる。

 まぁモデルも、線の細い美人顔だし、メイクしてるから、それほど違和感、ないっちゃないけど。

『でしょでしょ⁉』にやりと笑う従姉妹の顔が、脳裏に浮かんで――とりあえず、スルーした。


「この一番年上のキャラ、軍人かぁ……19世紀頃の、英国海軍の軍服とか、似合いそうだな」

 袖口と前立てに並んだ金ボタンが特徴の、黒に近いネイビーブルーの上下と白いシャツ、黒のクラバットにブーツ。

 うん、長身のイケメンにこそ、映える服だ。


 軍服の資料を見ながら、前世の俺は、タッチペンを握り直した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ