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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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子ウサギ脱走事件

「大変だ……」

 一応小屋の中を、ぐるりと確認してから

「ハルー! ナツーッ!」

 子ウサギ達の名前を呼びながら、侍女が裏庭を探していると

「あらっ、ユナさん? どーしたの⁉」

 黒髪美人のレベッカに、書斎の窓の下で、声をかけられる。

 事情を説明すると

「大変じゃない……! わたしも一緒に探すわ‼」

 驚いた声を張り上げて、子ウサギ捜索そうさくに参加してくれた。


「あらっ、見て! モーニングルームの、扉が開いてる――あそこから、屋敷の中に入ったんじゃない⁉」

 新人メイドが、大声で話しかけながら、扉の前に、ユナを連れて行く。

『この人、いつも元気一杯っていうか――声、大きいなぁ。バイオレット・サファイアの時といい、わざと誰かに、聞かせている感じ?』

 少し不審ふしんに思いながら、侍女が扉に目をやると、確かに……こちらも、ちょうど子ウサギが、通れる位の幅だけ、開いている。

「ほんとだ……」

 あれっ、さっき裏庭に出たとき……扉、閉めたよね?

「閉めたはず……」

 でも、ガラス張りの重い扉が、自然に開く訳ないし。


 考え込みながら、二人で中に入り、モーニングルーム内を確認してから、玄関ホールに。

「ハルー! ナツーッ‼」

 レベッカの大声に、呼ばれたように

「あらっ、どうしたの?」

 手帚てぼうき塵取ちりとりを手にした、金髪美人のエルシーが、書斎の方からやって来た。

「実は……」

 ユナが手短に、状況を説明していると

「いたーっ」

 階段裏の暗がりを、のぞいたレベッカが、少しだけ押さえた声を上げた。


「よーしよし、いい子だね……あっ!」

 真っ黒なナツを、優しい手つきで、そっと抱き上げてから、次に伸ばした新人メイドの右手から、するりと飛び降りた、白い子ウサギ。

「ハル! そっちいっちゃダメーッ!」

 ぴょんぴょーん! と子ウサギが跳ねて行った、ホールの先には、開いた玄関扉。

「誰かっ……ハルを捕まえてーっ‼」

 侍女の声を聞きつけて、見送りに出ていた乳母や従僕が、あわてて手を伸ばす。

 ぴょーん! と、その手をすり抜けた先にいたのは、ちょうど遠乗りに出かけようしていた、馬上のシャーロットだった。


「俺が……」

まかせて」

 隣の灰色の馬から、降りようとした、ジェラルドを制して

 白馬のくらから、するりと飛び降りた公爵令嬢が、ふわりと乗馬服のスカートを、広げて座った。

 腰のポーチから、馬のおやつ用に細くカットされた、人参を取り出して、

「ハル、おいで……」

 優しく、落ち着いた声をかける。

 ふんふんと、小さなお鼻を動かしてたハルが――ぴょーんと、濃紺の海に飛び込む。

 人参にかぶりついた、白い子ウサギを、シャーロットは、そっと抱き上げた。


「お嬢様……! ありがとうございます!」

 駆け寄った侍女が、ハルをレベッカに手渡してから、立ち上がろうとしたあるじに手を貸した時

「痛っ……!」

 いきなり眉をひそめる、公爵令嬢。

「お嬢様――? どうされました⁉」

 おろおろと、問いかけたユナに


「さっき飛び降りたとき――足首を、ひねってしまったみたい……」

 スカートの上から、左足首を押さえながら、結婚式を明後日に控えた花嫁は、小さな声で答えた。


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