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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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ナツへのプレゼント

 翌日いかにも、しぶしぶと言った様子で――昼食を、一緒に取ったアナベラに

「午後は、ドレスの仮縫かりぬいがあるの。4時には終わるから、また温室でお茶会しましょう?」

 シャーロットは、楽しそうに約束した。


 一旦寝室に戻ったものの、特にする事は見つからない。

「そうだ……ナツたちに、会いに行こう!」

 ベティがいないすきに、アナベラは、そっと部屋を抜け出した。

 階段を降りかけて、ふと3階に足を向ける。

「『仮縫いしてるドレス』って、どんなのかな?」


 今まで、自分の不平不満だけで、心をぎゅうぎゅう一杯にして、他人の事なんて、気にも留めなかった『悪役令嬢』が、

 にぎやかな声がれ聞こえる、奥方の間の、扉を少しだけ開き、そっと中をのぞくと

「わぁっ……」

 大きな鏡の前に、真っ白なドレスを着た『ウィル兄様の婚約者』が、立っていた。


 ふんわりした短い袖、裾に向かって広がるスカートの上には、ドレープを寄せた布を重ねて、腰には大きなリボン。後ろに長く、雲のような裳裾もすそが広がっている。

『お伽話とぎばなしに出て来る、お姫様みたい……』

 襟足えりあしまとめた銀の髪。仕立て屋や手伝いの人たちに囲まれた、白いドレス姿はそこだけ、物語の世界から、にじみ出て来たように見えた。


 ぼんやりと見とれていた、自分の頬に、ふと触れる、短い黒髪。

「――こんな髪のお姫様なんて、いるわけないっ」

 苛立いらだちを込めて、髪を払ったアナベラは、足早に階段を降りて行った。



 昨日通ったモーニングルームから、誰もいない裏庭に出たところで、思いついた。

「そうだわ! ナツたちに、おやつを持って行ってあげよう」

 兎小屋を一旦通り越して、菜園に向かう。

 今日は家政婦も、庭師もいないけど、昨日教えてもらった……

「あった、ルバーブ!」

 野菜とは思えないくらい、甘酸あまずっぱくて、美味しかった。

 赤い茎は上手く折れなかったので、もこもこした大きな、緑の葉っぱをちぎって

「ナツとハルも、『美味しい』って、喜んでくれるかな?」

 わくわくしながら、歩きだしたとき

「アナベラ様――!」

 温室の方から、ベティが走って来た。


「よかったー。お部屋にいないから、お探ししましたよ!」

 まるで、迷子みたいな言い方に、むっとして

「探してなんて、頼んでないわ! わたし忙しいの」

 つんっと、葉っぱを握って、兎小屋に向かう。

「えっと、どちらに……?」

「どこだって、いいでしょう!」


 小屋に着き、扉の横に下げてある、かぎを手に取る。

 むっ……葉っぱ持ってるから、開けるの難しいじゃない。

「ウサギさんに、会いたかったんですね? わたしが開けますよ?」

 小さい子供を、なだめるみたいな口調に、またむっとしながら、鍵を渡す。

「はい、どうぞ」

 細く開いた扉から中に入り、ふわふわの子ウサギたちを見た途端――癇癪かんしゃくの種は、どこかに飛んで行った。


 そっとしゃがむと、ぴょんっと、黒ウサギのナツが、寄って来てくれた。

「覚えててくれたの?」

 嬉しくて自然に、優しい声で話しかける。

「ナツたちに、プレゼントがあるの」

 右手に握っていた、大きなルバーブの葉っぱを、そっと、ひくひく動く、桃色のお鼻に近づけたとき


「だめっ……‼」

 ばっと――葉っぱごと指先を、すごい勢いで払われる。

 驚いて見上げると、役立たずの新米メイドのベティが、初めて見るきびしい顔で、こちらを見下ろしていた。


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