1章 エピローグ
◇◇◇
ボーン、ボーン……朝日が射し込む使用人棟に、6回、時計の音が響いた。
「ん――もぉ朝かぁ……」
目をこすりながら、ベッドから置き上げる。
奥方の間はバスルーム付だけど、こちらは個室ごとに上下水道完備――とはいかないので、水差しから洗面台にそそいだ水で、顔を洗う。
シンプルなロングワンピのような、寝間着を脱いで、ドロワーズとキャミソールの、白い下着姿に。
その上から、コルセットを付ける。
お嬢様ほどきつくは絞らないけど、綺麗にドレスを着るためには、がまんがまん。
前でぎゅっとヒモを結び、ストッキングを膝上で留めて、ペチコートを付け、やっとドレスにたどり着く。
新しく作ってもらった、白い襟とカフスの付いた、タンポポのような黄色と緑の、花柄のドレス。
ハウスメイドの制服は、午前中は、屋敷内の掃除等があるので、ざぶざぶ洗える、プリント柄のドレス。
午後は来客に備えて、黒いドレス、と決まっている。
侍女職は上級使用人に入るので、メイド用の制服を着なくても良いのだけど、わたしはあえて、皆と同じ服装をしている。
そのほうが距離が縮まって、『仲間』になれる気がするから。
そういえば、お嬢様のウェディングドレスの修復は、ヘア村の仕立て屋さんに加え、針仕事が得意の、村中の奥さんやお嬢さんが総出で、手伝ってくれるらしい。
どんなドレスになるのか――めちゃめちゃ楽しみ!
ドレスの前ボタンを留めて、かかとの低いブーツをはく。
鏡台に座り、淡いベージュブラウンの髪を手早く編んで、ピンでまとめた。
せっかくなら、シャーロット様と同じ、銀髪になりたかったけど……でも自然にウェーブが付いたこの髪も、結構気に入っている。
毛先がくるんてなって、一つにしばっただけでも、可愛いの!
鏡に映る目を見て、昨日の、お嬢様の言葉を、思い出した。
『あらっ――あなた達、瞳の色がそっくり!』
ミックの緑っぽいハシバミ色と、わたしのヘーゼルナッツ。
思わずしげしげと、お互いの目を見つめ合った。(なぜかミックは、すぐにそらしたけど)そんなに、似てるかな……?
それにしても、昨日の『収穫祭』は、楽しかったなー!
ナイフ投げの後、ウィルフレッド様が迎えに来たお嬢様と別れてから、また皆と合流して、あちこち見たり食べたり。
最後にメイン天幕をのぞいたら、おばあちゃんとミセス・ジョーンズが、楽しそうにお茶を飲んでいたのにびっくり!
「あらっ、ユナ――知らなかったの? あの二人は近頃、毎日一緒にお茶するくらい、仲良しなのよ?」
と得意げに教えてくれる、シャーロット様の左手薬指には、バイオレット・サファイアの指輪が、さんぜんと輝いていた。
「お、おおお嬢様――その指輪は!?」
「さっき、ウィルフレッド様から頂いたの」
ほんわりと頬を染めて、嬉しそうに報告する公爵令嬢。
ウィーズルが捜していた、兎穴の奥方に、代々伝わる家宝。
こちらに来る直前に、前領主夫人からゴート卿が預かり、ウィルフレッド様が受け取った後は、肌身離さず持っていたらしい。
あんなヤツに盗まれなくて、本当に良かった!
(ちなみにお嬢様は、犯人に聞かれるまで、家宝の存在すら、知りませんでした……名女優爆誕‼)
それよりなにより――何でその、指輪を渡す現場を見逃した、わたし!
ばかばかばか――‼
よしっ、今日一日かけてお嬢様から、隅から隅まで、じっくり聞き出そう!
ぴしっとアイロンをかけた、真っ白なエプロンを付け、レースのリボンが後ろに垂れる、小さなモブキャップを、まとめた髪に付ける。
鏡から見返すのは、きりっと顔を引き締めた侍女。
これがわたし、ユナ・マウサー。
鏡に写った自分に、にっと口角を上げて、エプロンのポケットに、ハンカチ、小さな鉛筆とメモ用の紙等が、入っている事を確認。
「行ってくるね、〇〇〇」
枕元の丸椅子に座る、前世の子と同じ――お嬢様そっくりの『推し』の――名前を付けた、テディベアに声をかけて、部屋を出る。
「あ、おはよーユナ!」
「おはよう!」
「おはよー!エマ、ジェイン!」
メイド仲間と笑顔で、朝の挨拶をかわす――映画ならここで、エンドロールが流れ出すシーン。
きっとこれからも、色々な事が、あるかもしれないけど、シャーロット様とウィルフレッド様は、もうすぐ結婚式を挙げて、お二人はいつまでも幸せに……
待って。
『攻略対象者』――まだ3人も、残ってる!!
……それはまた、次の機会に。
(ユナの日記より)
1章完結しました。
拙いお話ですが、読んでくださって、本当にありがとうございます。
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