続大ピンチ
時計の音を聞いた途端、さっと、マントのフードをかぶったシャーロットが、ユナをかばうように、覆いかぶさった。
次の瞬間――ガシャン! ガシャン! ガシャーンッ……‼
外から投げ込まれたレンガで、窓ガラスが、次々と割られる。
「ひいっ――‼」
降り注ぐガラス片から逃れようと、頭を抱えて、しゃがみ込む犯人。
バターン!
勢いよく扉が開いて、従僕達がなだれ込む。
抵抗する間も無く、ナイフをもぎ取られた犯人は、あっという間に押さえ込まれた。
「シャーロット様、おケガはございませんか?」
合鍵を、上着の内ポケットにしまいながら、心配そうに執事が、声をかける。
「ユナさんの周囲のガラスは、よけるよう、固く申しつけておきましたが」
「大丈夫よ。ユナは? ケガはない!?」
こくこくと頷く侍女に、ほっとしたように微笑んで
「作戦、成功ね」
公爵令嬢は、ガラスまみれのマントを、肩から外した。
シャーロットが、ユナの口元の布を取り、手首のヒモに手をかけたとき
「ユナッ! 無事か――!?」
ミックが、書斎に飛び込んできた。
「うん! ごほっ……大丈夫」
口元に残る、薬品の匂いに、咳き込みながらの返事。
それを聞いて、眉をひそめた従者は
「シャーロット様、俺――いえ、私がほどきます」
手首を縛ったヒモを、小ぶりのナイフで、慎重に切り出す。
「ごめん……助けるのが遅れて」
「こっちこそ、勝手に行動してごめんなさい。それから……」
「ん?」
「メッセージ、ありがと――ジョン」
「えっ、俺がワトソン……!?」
くふっと笑い合う二人を、シャーロットの紫の瞳が、不思議そうに見つめていた。
「シャーロット様も、本当にありがとうございます。でもお嬢様を、こんな危険な目に合わせるなんて――侍女失格です」
自由になった手首をさすりながら、しょんぼりとユナが頭を下げる。
「何を言ってるの? ユナは――」
公爵令嬢の言葉を、さえぎるように――わっ!と、部屋の奥で、声が上がった。
あわてて三人が目を向けると、降参したふりで油断させた犯人が、従僕達を振り払い、机に飛び乗る姿が。
ベルトの後ろから取り出した銃を、天井に向けて一発。
ダーーンッ……‼
何とか近寄ろうとする、周りを威嚇しながら
「シャーロット、こっちに来い!」
領主の婚約者を、興奮した声で呼ぶ。
「お前なら、隠し場所を、知ってるだろ!?」
「――何の、隠し場所ですか?」
落ち着いた声で返す、公爵令嬢に
「伯爵家のお宝、『バイオレット・サファイア』だよ……!」
犯人が叫んだ。
「バイオレット・サファイア……」
軽く曲げた人差し指を、口元に当てて、少し考えてから
「もちろん、知っていますわ」
にこりと、シャーロットは微笑んだ。
「お嬢様――行っちゃダメです‼」
「そうです、危険過ぎます! あいつは、銃を持ってるんですよ!?」
口々に止める、侍女と従者に向かって
「大丈夫」
にっこりと、レースで飾られた右手首を、ひらりと振って見せる。
はっと、目を見開くユナに、ひとつ頷いて
「分かりました。今、そちらに参ります!」
公爵令嬢は、凛とした声で、犯人に告げた。




